假樂(引用31:成王のよき政務)

假樂かがく



假樂君子かがくくんし 顯顯令德けんけんれいとく

宜民宜人ぎみんぎじん受祿于天じゅろくうてん

保右命之ほうめいし 自天申之じてんしんし

 その良き徳を楽しまれる君子。

 その徳は、実に鮮やかに現れている。

 故に民を治め、人を用いるのに長け、

 天よりの祝福も得ている。

 故に天命は王をよく助けるのである。


干祿百福かんろくひゃくふく 子孫千億しそんせんおく

穆穆皇皇ぼくぼくこうこう 宜君宜王ぎくんぎおう

不愆不忘ふけんふぼう 率由舊章そつゆうきゅうしょう

 天よりの祝福を求め、ゆえにこそ

 多くの子孫にも恵まれる。

 彼らもまた優れた王公となろう。

 子らもまた天道よりそれることなく、

 天道を見失うこともなく、

 先祖の示された法によく従われる。


威儀抑抑いぎよくよく 德音秩秩とくおんちつちつ

無怨無惡むえんむあく 率由群匹そつゆうぐんひつ

受福無疆じゅふくむきょう 四方之綱しほうしこう

 威儀厚くも、万事に控えめであり、

 ゆえにこそその徳はよく整う。

 王を恨むものも、憎むものもなく、

 こうして万官の力により政をなす。

 天よりの福も限りなく、

 まさに四方を引き締める要である。


之綱之紀しこうしき 燕及朋友えんきゅうほうゆう

百辟卿士ひゃくひきょうし 媚于天子びうてんし

不解于位ふかいうい 民之攸塈みんしゆうき

 四方を引き締め、粛然とさせ、

 しかして臣下を友とし、楽しむ。

 諸侯や官僚のいずれもがまた、

 王を慈しむ。

 その立場に甘んじず、政務に携わる、

 故に民が憩うのだ。




○大雅 假樂


成王の政務が行き届いていることを讃える歌である、と言う。ここであえて成王にこだわる必要もあるまい。粛然とし、しかし王の元で職務に励むことに喜びを見いだす。かくなるお題目が実現せば、確かにそれは素晴らしきことであろうな。しかし豳風で、散々幼き成王政権下で苦労した周公旦の話を見聞きしてきた立場からすると、「本当? 本当でござるか? 本当に臣下たちは心底王の元で働くことに喜びを見いだしているのでござるかぁ~?」とにじり寄ってみたいところもある。だいたい「働くことに喜びを見いだす」とか勘弁していただきたい。おっと作者の心の声が漏れ出したようである。




■宋国幸いなれ


宋書20 楽二

假樂聖后,實天誕德。積美自中,王猷四塞。

宋の文人である王韶之が詠んだ「宋後舞歌」の冒頭一節である。当詩で用いられている用法と全く同じ、「聖后」が徳ある様を楽しんでいる、とすべきなのであろう。ここでいう聖后は皇后のことを指すのであろうかな。ただ、この歌は「宋前舞歌」とワンセットになっておるようである。




■ぼくを皇太子にするなんて!


漢書11 哀帝

陛下聖德寬仁,敬承祖宗,奉順神祇,宜蒙福祐子孫千億之報。


漫画「キンとケン」にて一気に露出が加速した劉欣、こと哀帝。はじめ先代の成帝より皇太子に任じられたとき、それを辞退したのだそうである。そのときの台詞である。いやいやヘーカはご立派な方なんですから「直系の子孫を後継にお任じになったほうが国に幸いがもたらされますよ!」と述べたわけである。その辞退も叶わず、結局あとを継いでしまったわけなのであるが。そのあとの悲劇的展開についてはご存じの通り、である。




■宜民宜人,受祿于天

民に、臣下にとって良きことをなせば、天より幸いが下ろうとされる言葉。君主が民を愛するのがマスト、と語るわけであるが、「良き裁きをなす」「災害から民を救う」「即位したからには民を助けるよ!」「民によくしなければ国は乱れるよ!」といった感じで用いられているのがわかる。


・漢書 23 刑法 

『詩』云「宜民宜人,受祿于天」。『書』曰「立功立事,可以永年」。言為政而宜於民者,功成事立,則受天祿而永年命,所謂「一人有慶,萬民賴之」者也。

・漢書 56 董仲舒

善治則災害日去,福祿日來。詩云:「宜民宜人,受祿于天。」

・漢書 99.2 王莽中

 新室既定,神祇懽喜,申以福應,吉瑞累仍。『詩』曰:『宜民宜人,受祿于天;保右命之,自天申之。』此之謂也。

・後漢書99 祭祀下 注

 恭懷皇后命工祝承致多福無疆于爾孝曾孫皇帝,使爾受祿于天,宜稼于田,眉壽萬年。

・三國志58 陸遜

 故為國者,得民則治,失之則亂,若不受利,而令盡用立效,亦為難也。是以『詩』歎‘宜民宜人,受祿於天’。




■率由舊章

旧来よりのしきたりを倦まずよく守られよ、と語られる内容である。旧来の規範については「なぜその規範が立てられたのか」から必要か否かを考えねばならぬもののような気もせぬではない。もっとも、どれが時宜に適い、どれがそうでないかを見極めるのも、また容易ならざることではあるのだが。


・漢書 25 郊祀

『詩』曰『率由舊章』。舊章,先王法度,文毛詩正義


・後漢書3 章帝

 深惟守文之主,必建師傅之官。『詩』不云乎:「不愆不忘,率由舊章。」

・後漢書27 杜林

 詩曰:『不愆不忘,率由舊章。』宜如舊制,以解天下之惑。

・後漢書56 張晧

『詩』曰:『不愆不忘,率由舊章。』尋大漢初隆,及中興之世,文、明二帝,德化尤盛。・後漢書66 陳蕃

 代楊秉為太尉。蕃讓曰:「『不愆不忘,率由舊章,』臣不如太常胡廣。齊七政,訓五典,臣不如議郎王暢。聰明亮達,文武兼姿,臣不如㢮刑徒李膺。」帝不許。

・後漢書98 祭祀上

 宗廟至重,眾心難違,不可卒改。詩云『不愆不忘,率由舊章』,明當尊用祖宗之故文章也。

・後漢書99 祭祀下

 大雅曰:「昭哉來御,慎其祖武。」又曰:「不愆不忘,帥由舊章。」明德皇后宜配孝明皇帝於世祖廟,同席而供饌。


・晋書30 刑法

 省去肉刑,除相坐之法,他皆率由舊章 ,天下幾致升平。

 遵復古典, 率由舊章,起千載之滯義,拯百殘之遺黎

・晋書46 劉頌

 今之建置,宜使率由舊章,一如古典。

・晋書50 庾純

 故陶唐之隆,順考古典;周成之美,率由舊章。

・晋書77 評

 然皆率由舊章,得免祗悔。

・晋書123 慕容垂

 陛下鍾百王之季,廓中興之業,天下漸平,兵革方偃,誠宜蠲蕩瑕穢,率由舊章。


・宋書17 礼四

 魏、晉二代,取則奉薦,名儒達禮,無相譏非,不諐不忘,率由舊章。

・宋書18 礼五

 中單韋舄,率由舊章。


・魏書48 高允

 欽若稽古,率由舊章,前言往行,靡不究鑒,前皇所不逮也。

・魏書62 李彪

 天清其氣,地樂其靜,不愆不忘,率由舊章,可謂重明疊聖,元首康哉。

・魏書114 釈老

 前朝城內,先有禁斷,自聿來遷鄴,率由舊章。




■受福無疆


漢書22 礼楽 唐山夫人十七首

承容之常,承帝之明。下民安樂,受福無疆。

劉邦の側室のひとり唐氏が詠んだ氏の一節である。皇帝の権威が確固とし、それで民を安んじれば大いに福禄を受けられますよ、とする。言葉としては宜民宜人と似通ったメンタリティであるとも言えよう。




■なぜ民が安らぐのか

民が安らぎを得るのは、君主が君主の分を全うして施政をなすがゆえである、とする。そこから逸脱した君主を民はもはや信頼などすまい、とするのである。故に春秋は君主の分を違えたものを批判する文脈で用いる。漢書五行志も内容は魯の昭公21年3月であり、つまりここで紹介している左伝と内容を一とする。まぁ、尊い地位について驕り高ぶるのは、だいたいの場合の定番ルートではあるな。


・左伝 成公2-11

 不得列於諸侯,況其下乎? 詩曰:「不解于位,民之攸塈。」其是之謂矣?

・左伝 昭公21-3

 詩曰:「不解于位,民之攸塈。」今蔡侯始即位。

・左伝 哀公5-10

 詩曰:「不解于位,民之攸塈。」不守其位,而能久者鮮矣。商頌曰:「不僭不濫,不敢怠皇,命以多福。」

・漢書 27.2 五行

『詩』曰『不解於位,民之攸塈。』今始即位而適卑,身將從之。 




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