既醉(引用9:子孫繁栄を願う宴)

既醉きすい



既醉以酒きすいいしゅ 既飽以德きほういとく

君子萬年くんしばんねん 介爾景福かいじけいふく

 宴が終わり、酒と王の徳とで

 参列者らは満ち足りる。

 参列者は祈る、王のとこしえを、

 王も祈る、参列者の幸福を。


既醉以酒きすいいしゅ 爾殽既將じこうきしょう

君子萬年くんしばんねん 介爾昭明かいじしょうめい

 ずらりと並んだ酒と、酒の肴。

 王よ、ここに並べられた品の

 盛んなるのごとく、

 長らくに栄え、徳を明らかにされよ。


昭明有融しょうめいゆうゆう 高朗令終こうろうれいしゅう

令終有俶れいしゅうゆうしゅく 公尸嘉告こうしかこく

 王の光輝なる徳が四方を照らし、

 宴を見事に締められた。

 皆が終わりをよく迎えられますよう。

 終わりがあれば、始まりもある。

 宴の成功に気を緩めませぬよう。

 そう、神の形代も告げておられる。


其告維何きこくいか 籩豆靜嘉へんとうせいか

朋友攸攝ほうゆうゆうせつ 攝以威儀せついいぎ

 そのお告げはいかなるものか。

 供え物を美しく並べ、伺いを立てる。

 また王の臣下らも祭祀の手伝いをなし、

 敬虔なる態度で、お言葉を待つ。


威儀孔時いぎこうじ 君子有孝子くんしゆうこうし

孝子不匱こうしふき 永錫爾類えいしゃくじるい

 形代に代わり、詩人が告げる。

 王の威儀、甚だ時宜にかなう。

 そなたには良き子が恵まれよう。

 その子にもまた良き後継が続く。

 こうして国は、長く繁栄しよう。


其類維何きるいいか 室家之壼しつかしこん

君子萬年くんしばんねん 永錫祚胤えいしゃくそいん

 良き後継とは何であるか。

 王と同じく世を教化し、

 天下を広げるのだ。

 これが連なることで、

 国は万年の栄華を保つ。

 後継にも恵まれ続けるのだ。


其胤維何きいんいか 天被爾祿てんひじろく

君子萬年くんしばんねん 景命有僕けいめいゆうぼく

 どうして後継に恵まれるのか。

 天が幸いを授けるがゆえである。

 国は万年の栄華を保つ。

 周に下された天命は、

 いつまでも周の側にあり続ける。


其僕維何きぼくいか 釐爾女士りじじょし

釐爾女士りじじょし 從以孫子じゅういそんし

 どうして側にあり続けるのか。

 王のもとに良き娘、良き息子を

 授けるゆえである。

 ゆえにこそ子孫もまた栄えるのだ。




○大雅 既醉


周王朝を祝賀したい気持ちが炸裂しすぎて理屈がループしているな。無論そういう手合いの台詞は恍惚とした状態で決めることによって盛り上がるのが常であるが。問題は端から見るとだいぶ薄ら寒いことである。「万年の繁栄を」という言葉に、いや千年保ちませんでしたけどね? とツッコミを入れたくなってしまうのは、まぁ無粋であるのかな。




■意外と使われてない「既醉」


語が語だけに、もっと出てくるものと思っておったのだが。史書ともなると、却って出てきづらいのやもしれぬな。しかもここに出てくる用法もまちまちであり、春秋は賓客を歓待する意味合いで、後漢書は麻酔が効いてきた意味合いで、晋書宋書は……まぁ、陶淵明だものな。


・春秋 襄公27

 晉侯享之.將出.賦既醉.叔向曰.薳氏之有後於楚國也.宜哉

・後漢82.2 華佗

 若疾發結於內,針藥所不能及者,乃令先以酒服麻沸散,既醉無所覺,因刳破腹背,抽割積聚。

・宋書93 陶潜

・晋書94 陶潜

 或置酒招之,造飲輒盡,期在必醉,既醉而退,曾不吝情去留。




■孝子不匱,永錫爾類


子孫代々の繁栄を願う言葉。なのであるが、基本親に孝行の限りを尽くす息子を讃えるために用いられておる。君は孝行息子なので、一門も繁栄するだろう! と言うわけである。


・左伝 陰公1-4

 君子曰:「潁考叔,純孝也,愛其母,施及莊公。『詩』曰:『孝子不匱,永錫爾類。』其是之謂乎!」

・左伝 成公2-6

 其若王命何.且是以不孝令也.詩曰.孝子不匱.永錫爾類.若以不孝令於諸侯.其無乃非德類也乎.

・後漢書55 劉寿

 諒闇已來二十八月,自諸國有憂,未之聞也,朝廷甚嘉焉。『書』不云乎:『用德章厥善。』『詩』云:『孝子不匱,永錫爾類。』




■まことの威儀とは


左伝 襄公31-12

衛詩曰.威儀棣棣.不可選也.言君臣上下.父子兄弟.內外大小.皆有威儀也.周詩曰.朋友攸攝.攝以威儀.言朋友之道.必相教訓.以威儀也.周書數文王之德曰.大國畏其力.小國懷其德.言畏而愛之也.詩云.不識不知.順帝之則.言則而象之也.


襄公がその補佐役と、「真に威儀のある人物とはどのようなものか?」を語り合ったシーンである。補佐役は詩経より三詩の句を挙げて言う。すなわち邶風柏舟の「それぞれの地位にはそれぞれの地位なりの威儀がある」ことを踏まえ、当詩の「共に威儀を持って助け合う」ことを語り、そして大雅皇矣の「特に意識するまでもなく天帝の定めたもうた規範に則っている」ような振る舞い、と説く。その間には書経より「大国が恐れ、小国が敬う」ような国の振る舞い、と言う言葉も挟まれている。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B8%83#%E3%80%8A%E6%97%A2%E9%86%89%E3%80%8B

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