行葦(引用16:兄弟老人は王の補佐)

行葦こうい



敦彼行葦とんかこうい 牛羊勿踐履ぎゅうようもこつせんり

方苞方體ほうほうほうてい 維葉泥泥いようでいでい

 道ばたに群生するアシ。

 牛よ、羊よ、踏むことなかれ。

 葉はまさに茂り合い、成長している。


戚戚兄弟せきせきけいてい 莫遠具爾ばくえんぐじ

或肆之筵わくししえん 或授之几わくじゅしき

 アシたちのごとく、

 兄弟たちも共に伸び合う。

 近しくあれ、遠ざからぬようにせよ。

 敷物を敷き、肘掛けを置き、

 さあ、宴を始めよう。


肆筵設席しえんせつせき 授几有緝御じゅきゆうしゅうぎょ

或獻或酢わくけんわくさく 洗爵奠斝せんしゃくてんか

 敷物の上に、更に一枚。

 肘掛けは、更にその上。

 肘掛けをつかうは老人、

 尊敬すべき人生の先輩方。

 彼らの用向きを聞く係を、交代で行う。

 宴の主人より、客人の献杯があり、

 客人からは返杯がなされる。

 主人は一度その杯を洗うと、

 改めて献杯する。


醓醢以薦たんかいいせん 或燔或灸わくはんわくきゅう

嘉殽脾臄かこうひきゃく 或歌或咢わくかわくがく

 塩味の肉入りスープが振る舞われる。

 あるいは直焼きの肉、熾火焼きの肉。

 珍味も出てくる。脾臓や唇、舌である。

 人々は歌い、太鼓をたたく。


敦弓既堅とんきゅうきけん 四鍭既鈞しこうききん

舍矢既均しゃしききん 序賓以賢じょひんいけん

 文様の描かれた弓は、堅い。

 四本の矢は規格が整っている。

 会場に設けられた的に、

 四本の矢が見事に刺さる。

 宴の席次は、射的の成績で決まる。


敦弓既句 既挾四鍭とんきゅうきく《ききょうしこう》

四鍭如樹しこうじょじゅ 序賓以不侮じょひんいふぶ

 弓を引き絞り、矢をつがえ、放つ。

 四本の矢は側で突き立てたかのように、

 綺麗に的に命中した。

 成績が良かろうと、悪かろうと、

 態度の悪くないものが上席となる。


曾孫維主そうそんいしゅ 酒醴維醹しゅれいいじゅ

酌以大斗しゃくいだいと 以祈黃耇いきおうこう

 宴の主人は成王である。

 彼の振る舞う酒は濃く、甘い。

 大きなひしゃくで酒をすくい、

 黄髪の老人たちに振る舞う。


黃耇台背おうこうだいはい 以引以翼いいんいよく

壽考維祺じゅこういき 以介景福いかいけいふく

 黄髪の老人たちは、経験豊富。

 王を導き、助けてくれるお方。

 長らく生きられ、幸福を受けられよ。




○大雅 行葦


やや散漫な詩のようにも思えてならぬ。兄弟が共に助け合い、成長し、先祖の霊、天地の神に感謝し、そして経験を積み、その経験でもって王を支えるがごとき存在となられよ、と祈るのであろうか。経験豊かなる老人の言葉は、王の助けとなる。なるほど、もっともな話である。




■行葦、下々にまで行き渡る恩沢

下々、世俗の末端、を雅やかに表す言葉となっておる。ここに挙げた15例がほぼ「提言」「諫言」の類いであるのが全てであろう。上の者に「お前もっと下の者のことも慮れよ」と言いたいときに用いられることが非常に多いわけである。


・春秋 隠公3

 行之以禮,又焉用質?『風』有『采繁』、『采蘋』,『雅』有『行葦』、『泂酌』,昭忠信也。

・漢書85 谷永

 王者躬行道德,承順天地,博愛仁恕,恩及行葦

・後漢書3 章帝

 車可以引避,引避之;騑馬可輟解,輟解之。『詩』云:「敦彼行葦,牛羊勿踐履。」

・後漢16 寇恂

 昔文王葬枯骨,公劉敦行葦,世稱其仁。

・三國志19 曹植

 故夫忠厚仁極草木,則行葦之詩作;恩澤衰薄,不親九族,則角弓之章刺。

・晋書23 楽下

・宋書19 楽一

 皮膚外剝,肝心內摧,敦彼行葦,猶謂勿踐,矧伊生靈,而不惻愴。

・晋書38 紀瞻

 如復天假之年,蒙陛下行葦之惠,適可薄存性命,枕息陋巷,亦無由復廁八坐,升降臺閣也。

・宋書22 楽四

 譬彼針與石,效疾故稱良。行葦非不厚,悠悠何詎央。

・宋書100 沈璞

 既獲遄至,胡馬卷迹,支離霑德,復繼前緒,行葦之歡,實協初慮。

・魏書2 拓跋珪

 伏惟陛下德協二儀,道隆三五,仁風被於四海,盛化塞于大區,澤及昆蟲,恩霑行葦

・魏書19 元澄

 太平之世,草不橫伐,行葦之感,事驗隆周。

・魏書24 張倫

 今大明臨朝,澤及行葦,國富兵強,能言率職。

・魏書48 高允

 元兇狐奔,假息窮墅,爪牙既摧,腹心亦阻。周之忠厚,存及行葦,翼翼聖明,有兼斯美。



■兄弟は助け合うべきだってのに


漢書47 梁王 劉立

春秋為親者諱。『詩』云『戚戚兄弟,莫遠具爾』。


前漢において、梁王とはいろいろヤバイ王譜だったようである。断絶したり、他血統から養子として継承してみても結局何やらヤバイ問題を起こす。ここに挙がる劉立も父の劉嘉がクソヤバであり、更に彼も輪をかけクソヤバ、谷永という人より「こいつ殺した方がいいんじゃないですかね」なる上奏をされている。その一節である。いや王の家系って皇帝と兄弟のごとく助け合うべき存在でしょうよ、全然ダメじゃん、と言うわけである。しかし時の皇帝はこれを却下。劉立はその後果たしてシリアルキラーとなり、最終的には王位を廃され漢中に流された。その途上で自殺。兄弟云々以前過ぎぬか……?





毛詩正義

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