下武(引用10:武王即位す)

下武かぶ



下武維周かぶいしゅう 世有哲王せいゆうてつおう

三后在天さんこうざいてん 王配于京おうはいうきょう

 先王の統治を踏まえ、後世につなぐ、

 それが周の国。

 代々、優れた王を輩出された。

 古公亶父、季歴、文王の霊は天にあり、

 そしてついに武王が王位に就かれた。


王配于京おうはいうきょう 世德作求せいとくさくきゅう

永言配命えいげんはいめい 成王之孚せいおうしふ

 王は王城に立たれる。

 その徳は先王たちにも引けを取らぬ。

 天命に従い、王よ、

 王者のまことを成し遂げられよ。


成王之孚せいおうしふ 下土之式かどししき

永言孝思えいげんこうし 孝思維則こうしいそく

 王者のまことをなせば、

 それを下々の者が自ずと倣おう。

 武王が先祖の霊を敬うからこそ、

 人々もまた先祖の霊を敬うのである。


媚茲一人びじいちじん 應侯順德ようこうじゅんとく

永言孝思えいげんこうし 昭哉嗣服しょうさいしふく

 なんとも愛すべき、

 敬服すべき一なるお方。

 その孝悌従順の徳に、

 人々もまた感化される。

 いつまでも孝悌なるを思われよ。

 先王の偉業を継がれたこと、

 まばゆく輝いてこられよう。


昭茲來許しょうじらいきょ 繩其祖武しょうきそぶ

於萬斯年おーばんしねん 受天之祜じゅてんしこ

 なんとも明らかなる、武王。

 先祖らのあとに生まれ来たり、

 先祖の拓いた道のりを継がれた。

 ああ、万年のとこしえよ。

 天の幸いが授かりますよう。


受天之祜じゅてんしこ 四方來賀しほうらいが

於萬斯年おばんしねん 不遐有佐ふかゆうさ

 天よりの幸いを受けたればこそ、

 四方の諸侯は武王の元に訪れ、

 武王を祝福されたのだ。

 ああ、万年のとこしえよ。

 王を助く者が途切れませぬよう。




○大雅 下武


文王の徳を継いだ武王を讃える。一節には「成王」の文字があるため成王よりあとの代に作られた詩なのではないか、と主張する者もおるそうであるが、それはいくら何でも字面にとらわれすぎであろう。なお詩題に載る「武」は武王の武ではなく、「踏襲する」的な意味合いなのだそうである。




■先王を継ぐ

と言うわけで「継承」の雅語として用いられていそうなケースを引っ張り出してみた。上奏上表の類いで用いられておることが多い。


・晋書115 苻丕

 征東大將軍、長樂公,先帝元子,聖武自天,受命荊南,威振衡海,分陝東都,道被夷夏,仁澤光於宇宙,德聽侔于『下武』。

・宋書29 符瑞下

 因心則哲,令問弘敷。繼徽下武,儷景辰居。

・宋書44 謝晦

 泝流三千,虛館三月,奉迎鑾駕,以遵下武,血心若斯,易為可鑒。

・宋書67 謝霊運

 明思服於下武,興繼代以消逆。

・魏書18 元彧

 文穆皇帝天眷人宅,歷數有歸,朕忝承下武,遂主神器,既帝業有統,漢氏非倫。

・魏書77 羊深

 宣皇下武,式遵舊章,用能揄揚盛烈,聿修厥美。

・魏書108.2 礼二

 陛下叡哲淵凝,欽明道極,應必世之期,屬功成之會,繼文垂則,實惟下武。

・魏書109 楽

 伏惟陛下仁格上皇,義光下武,道契玄機,業隆寶祚,思服典章,留心軌物




■陛下今こそ封禅の時です


後漢書35 張純 文王之什下武

『詩』云:「受天之祜,四方來賀。」今攝提之歲,倉龍甲寅,德在東宮。


封禅とは、時の皇帝が天帝に向け「私は世の中を平和に導きました」と報告する儀式。要は「俺が最強の皇帝だ」宣言である。漢を中興した光武帝に向け、張純は当詩を引き、まさに今年こそが封禅をやるべきタイミングですぞ! と説いたのである。




■司馬昭殿はしゅごい


晋書2 司馬昭

公饗祀蒸蒸、孝思維則、篤誠之至、通于神明、是用錫公秬鬯一卣、珪瓚副焉。


司馬昭に与えられた九錫に記された文言(典策文)の一節である。これは司馬昭の魏国中における功績の数々を不徳なる皇帝に変わり成し遂げてくれたこと、また魏国中でいかに仰ぎ見られるに値する人物であるかを長々と語り、その徳を称えるにはもはや皇帝レベルの大権を授けるしかない、と言う意味合いのもと授けられる。ここでは「その功の徳があまりにも高らかであるから、それに見合った道具をプレゼントするね」と語られておる。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E5%85%AD#%E3%80%8A%E4%B8%8B%E6%AD%A6%E3%80%8B

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