都人士(引用1:昔の栄華と今の糜爛)

都人士とじんし



彼都人士かとじんし 狐裘黃黃こきゅうおうおう

其容不改きようふかい 出言有章しゅつげんゆうしょう

行歸于周こうきうしゅう 萬民所望ばんみんしょぼう

 かの都の方々は、

 それはもうお見事なキツネの皮衣。

 まったく堂々としたお姿、

 そのお言葉もみやびやか、

 その振る舞いはみなみな様の規範、

 まさに人々が羨望するところ。


彼都人士かとじんし 臺笠緇撮たいりゅうしさつ

彼君子女かくんしじょ 綢直如髮ちゅうちょくじょはつ

我不見兮がふけんけい 我心不說がしんふせつ

 かの都の方々は、

 髪の毛を布と笠とでくるみ、

 少しも派手派手しいところもない。

 かの王公の娘ごは、

 艶やかな黒髪を綺麗に束ねる。

 昔はそのようであったらしいが、

 今はそのような者は見掛けない。

 なので私の心は喜ばぬ。


彼都人士かとじんし 充耳琇實じゅうじしゅうじつ

彼君子女かくんしじょ 謂之尹吉いしいんきつ

我不見兮がふけんけい 我心苑結がしんえんけつ

 かの都の方々は、

 玉飾りの冠が耳にまで及ぶ。

 かの王公の娘ごは、

 礼法を身につけた良きお方。

 昔はそのようであったらしいが、

 今はそのような者は見掛けない。

 なので私の鬱々とする。


彼都人士かとじんし 垂帶而厲すいたいじらい

彼君子女かくんしじょ 卷髮如蠆かんはつじょたい

我不見兮がふけんけい 言從之邁げんじゅうしまい

 かの都の方々は、

 帯をきっちりと締めている。

 その上で、余りが垂れている。

 かの王公の娘ごは、

 髪の毛をサソリの尾のように

 きっちり巻き上げる。

 昔はそのようであったらしいが、

 今はそのような者は見掛けない。

 もしも見掛けるならば、

 彼ら彼女らの後に従いたいものだが。


匪伊垂之ひいすいし 帶則有餘たいそくゆうよ

匪伊卷之ひいかんし 髮則有旟はつそくゆうよ

我不見兮がふけんけい 云何盱矣うんかくい

 垂らすために垂れているのではない。

 余るからこそ、垂れるのだ。

 巻くために巻いているのではない。

 髪が余っているから巻き上げるのだ。

 昔はそのようであったらしいが、

 今はそのような者は見掛けない。

 何とも悩ましきことであろうか。




○小雅 都人士


昔はよかった、を地で行くわけであるな。昔の都に行き交う人々、君主らの娘はまこと威儀正しきが故に美しかった。まずは礼が先にあり、そのための格好よさであった、とする。しかるに今は格好の追求のみが先立ち、そこに威儀を求めるそぶりはない、とする。ウンソウデスネー。




■聖王が現れると民も豊か


宋書97 西南夷訶羅陁國

聖王出時,四兵具足,導從無數,以為守衞。都人士女,麗服光飾,市廛豐富,珍賄無量,王法清整,無相侵奪。


特に場所は比定されておらぬが、まぁベトナムやタイあたりの国であろう。その国から献上されたお手紙の一節であり、そのお手紙があてられたのは宋文帝劉義隆。「いやー偉い王さんがいると城も町もえろう華やかで豊かどすなー」みたいな感じなのだが、そこに「都人士」句をひっかけると微妙に嫌味のように見えなくもない。まぁ素直に「詩経が讃えた昔の王朝の素晴らしさを今に現出されている!」と読むのが正着なのであろうがな。



毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%BA%94#%E3%80%8A%E9%83%BD%E4%BA%BA%E5%A3%AB%E3%80%8B

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