北山(乱政批判)  

北山ほくざん



涉彼北山しょうかほくざん 言采其杞げんさいきき

偕偕士子かいかいしし 朝夕從事ちょうせきじゅうじ

王事靡盬おうじびこく 憂我父母ゆうがふぼ

 あの北の山に登ってクコの実を摘む。

 壮驍たる君子らとともに

 朝から夕まで仕事に励む。

 お国の経営はおろそかにできぬ。

 両親には心配をかけてしまうことよ

溥天之下ふてんしか 莫非王土ばくひおうど

率土之濱そつどしひん 莫非王臣ばくひおうしん

大夫不均たいふふきん 我從事獨賢がじゅうじどくけん

 この広い天の下に、

 王の地でない場所はない。

 海に至るまでの、すべての民で、

 王の民でない者はいない。

 だというのに王宮人事は公平さを欠く。

 私一人がルールに従い、労苦する。


四牡彭彭しぼほうほう 王事傍傍おうじぼうぼう

嘉我未老かがびろう 鮮我方將せんがほうしょう

旅力方剛りょりきほうごう 經營四方けいえいしほう

 四頭の牡馬が車を引き、

 せわしなく行きかう。

 お国の経営の活発であることよ。

 私が壮健であることを喜ぼう。

 私が精力的であれることを喜ぼう。

 各地に飛び回り、各地を運営するのだ。


或燕燕居息いくえんえんきょそく 或盡瘁事國いくじんすいじこく

或息偃在床いくそくえんざいしょう 或不已于行いくふいうぎょう

 ボケーッとさぼる者もあり、

 くたびれ果てている者もあり、

 役所内で心労をため込む者もあり、

 方々に飛び回る者がある。


或不知叫號いくふちぎょうごう 或慘慘劬勞いくさんさんくろう

或棲遲偃仰いくせいちえんぎょう 或王事鞅掌いくおうじおうしょう

 怒鳴り散らすことなく事をなす者があり、

 ひいひいと苦労する者があり、

 傷つき喘ぎながら働く者があり、

 王の命令に翻弄され続ける者がある。


或湛樂飲酒いくたんがくいんしゅ 或慘慘畏咎いくさんさんいけい

或出入風議いくしゅつにゅうふうぎ 或靡事不為いくびじふい

 酒を飲んで楽しむ者があり、

 ペナルティを恐れ汲々とする者があり、

 朝廷内で好き放題言う者があり、

 骨折り損を押し付けられる者がある。 




○小雅 北山


ここでも詩序は幽王を批判したがるのであるが、他の批判詩に比べるとややポジティブな面が見える気がせぬでもない。「我ひとり賢」とあるので、自分以外で安逸にふける者を冷徹に観察しておるきらいも感ぜられる。ただ、ピントの外れた頑張りを認められぬものが往々にして「自分ひとりが苦労してばかりいる」と思い込むのもまた人情なのでな。困ったものである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B8%89#%E3%80%8A%E5%8C%97%E5%B1%B1%E3%80%8B

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