四月(引用2:果て無き苦役) 

四月しげつ



四月維夏しげついか 六月徂暑りくげつしょしょ

先祖匪人せんそひじん 胡寧忍予こねいにんよ

 四月より始まる夏は、

 六月に暑さが極まる。

 夏の暑さの如き、苛烈な収奪。

 なぜ先祖はこのような

 子孫のありさまを見て、

 黙って見ておれるというのか。


秋日淒淒しゅうじつせいせい 百卉具腓ひゃくきぐひ

亂離瘼矣らんりばくいー 爰其適歸えんきてきき

 冷え冷えとした秋風が

 草花を枯れさせる。

 人々は乱の中離れ離れとなった。

 いつ、故郷へと帰れるのか。


冬日烈烈とうじつれつれつ 飄風發發ひょうふうはつはつ

民莫不穀みんばくふこく 我獨何害がどくかがい

 冬の寒気は厳しく身を苛む。

 つむじ風がひょうひょうと吹く。

 人々は家族を養えているようだが、

 私の余力は、ついに尽きた。


山有嘉卉さんゆうかき 侯栗侯梅こうりつこうばい

廢為殘賊はいいさんぞく 莫知其尤ばくちむゆう

 確かに、山頂には良き草木がある。

 栗や梅なども実っておろう。

 が、それらは我らを収奪にかかる。

 そして、誰も罪の意識も抱かない。


相彼泉水そうかせんすい 載清載濁たいせいたいだく

我曰構禍がえつこうか 曷云能穀かつせいのうこく

 流れくる泉の水も、

 もとは澄んでいたはずが、

 すっかり濁っている。

 私が災いにあっていると叫んでおれば、

 いつかは事態が好転するのだろうか。


滔滔江漢とうとうこうかん 南國之紀なんごくしき

盡瘁以仕じんすいじし 寧莫我有ねいばくがゆう

 とうとうと流れる長江や、漢水。

 南国はかの大河によって支えられる。

 その南国に出征している私は、

 その任に疲れ果てている。

 我が窮状、どうして誰も

 気付いてはくれぬのか。


匪鷻匪鳶ひたんひえん 翰飛戾天かんひれいてん

匪鱣匪鮪ひてんひい 潛逃于淵せんちょううえん

 高く天を飛ぶ

 ワシやトビのようであれば、

 どんなに良かったことか。

 深い川底へと潜り込める

 ウナギやシビのようであれば、

 どんなに良かったことか。


山有蕨薇さんゆうけつび 隰有杞桋しつゆうきい

君子作歌くんしさくか 維以告哀いじこくあい

 山に生えるワラビやゼンマイのように、

 沢辺のクコやナツメのように、

 己の生きる場所を定められるのは、

 なんと恵まれたことか。

 君子は歌を歌い、

 この悲しみを訴えるしかないのか。




○小雅 四月


王命によって際限なく苦役に立たされ続ける君子。この歌を歌う時、その周りにはこの歌を共有してくれる誰かがいたのであろうか。せめてともに歌ってくれた者がいてくれれば、と願わずにはおれぬ。そして詩序は平常運転。幽王最悪、を語っておる。ここまでぶれぬとすがすがしいな。




■挽歌は歌った方がいいと思うよ


晋書20 礼中

『詩』稱「君子作歌,惟以告哀」,以歌為名,亦無所嫌。宜定新禮如舊。


晋で大臣が亡くなった時に葬送歌を歌うかどうか、と言う議論がなされた。旧来の礼制にないのだから歌わぬ方がよいのではないか、と言う意見も出る中、摯虞と言う人物が過去に葬送歌が歌われておること、また当詩でも「君子が歌で悲しみを告げる」と歌っておるのだから、葬送歌は歌うべきであろうと提案。採用された。





■喪失の悲しみの歌


魏書108-4

晉博士許猛解三驗曰:案黍離、麥秀之歌,小雅曰「君子作歌,惟以告哀」,魏詩曰「心之憂矣,我歌且謠」。


北魏末期、葬儀についての議論がなされた際、元珍と言う人物が三つ、悲しみを歌う歌を上げた。一つが黍離&麥秀、ひとつが小雅四月、そして最後の一つは魏風園有桃である。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B8%89#%E3%80%8A%E5%9B%9B%E6%9C%88%E3%80%8B

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