斯干(引用26:一門の繁栄を願う)

斯干きかん



秩秩斯干ちつちつきかん 幽幽南山ゆうゆうなんざん

如竹苞矣じょちくほういー 如松茂矣じょしょうもいー

兄及弟矣けいきゅうていいー 式相好矣しきそうこういー 無相猶矣むそうゆういー

 水豊かな谷間を擁する、奥深き南山。

 そこには竹や松の木が茂る。

 兄弟よ、睦合え。違うことなかれ。


似續妣祖じぞくびそ 築室百堵ちくしつはくと 西南其戶さいなんきこ

爰居爰處えんきょえんしょ 爰笑爰語えんしょうえんご

 先祖のみたまやを引き継ぎ、

 広き廟を立てる。

 その入り口は南西を向く。

 そこに集い、皆で語らい、笑わん。


約之閣閣やくしかくかく 椓之橐橐たくしたくたく

風雨攸除ふううゆうじょ 鳥鼠攸去ちょうそゆうきょ 君子攸芋くんしゆうしょ

 皆で力を合わせ、建てたみたまや。

 風雨を避け、鳥やネズミをも避ける。

 先祖の霊のみが、その場におられる。


如跂斯翼じょしきよく 如矢斯棘じょしききょく 如鳥斯革じょちょうきかく

如翬斯飛じょききひ 君子攸躋くんしゆうせい

 そびえたつさまは翼が広がるごとく、

 また矢のごとき鋭さをも帯びる。

 それは鳥が羽ばたくがごとく、

 キジが飛び立たんかのごときであり、

 美しい。

 先祖の霊がいますにふさわしき所。


殖殖其庭しょくしょくきてい 有覺其楹ゆうかくきえい 噲噲其正かいかいきせい

噦噦其冥さいさいきめい 君子攸寧くんしゆうねい

 平らかなる庭、まっすぐな柱。

 廟内は明るいが、その奥は暗い。

 まこと、先祖の霊の安らげる場。


下莞上簟かかんじょうたん 乃安斯寢しあんきしん

乃寢乃興ししんしこう 乃占我夢しせんがむ

吉夢維何きつむいか 維熊維羆いゆういひ  維虺維蛇いきいだ

 カマのむしろを敷き、

 竹のむしろを掛け、安らぎ眠る。

 ややあって目覚め、起きれば、

 夢見た内容を占う。

 なにが良き夢であろうか。

 クマか、ヒグマか、マムシか、ヘビか。

 

大人占之だいじんせんし

維熊維羆いゆういき 男子之祥だんしししょう

維虺維蛇いきいだ 女子之祥にょしししょう

 占い師は語る。

 クマやヒグマであれば、男の子が、

 マムシやヘビであれば、女の子が、

 そなたにもたらされよう、と。


乃生男子しせいだんし 載寢之床たいしんししょう

載衣之裳たいいししょう 載弄之璋たいろうししょう

其泣喤喤ききゅうこうこう 朱芾斯皇しゅふつきこう 室家君王しつかくんおう

 男の子に恵まれるならば、

 寝台に寝かせ、袴を着せ、

 璋の宝玉を与えよう。

 その鳴き声が大きければ、

 赤い膝掛を掛けよう。

 立派な人になりますように、

 家を率いる人になれるように、と。


乃生女子しせいにょし 載寢之地たいしんしち

載衣之裼たいいしてい 載弄之瓦たいほんしが 無非無儀むひむぎ

唯酒食是議ゆいしゅしょくぜぎ 無父母詒罹むふぼたいり

 女の子に恵まれたならば、

 大地に寝かせ、産着を着せ、

 糸巻を持たせよう。

 過ちなく、邪でなく、

 酒と食とを用意するのが役目。

 父母に心配を掛けぬよう。




○小雅 斯干


人間は先祖より命を引き継ぐもの。故に先祖を敬い奉り、また後世に命を継ぐ者として、新たに子をなすさだめ。ところで諸解釈を見ると最終連、女児を寝台でなく床に置くのは「女性=大地の象徴であり、将来この子も無事に子供が産めるよう祈った」と解釈する向きがあるのだが、それならばこの連はもっと出産に絡む内容が多くなるのではなかろうか。ともなれば古来の解釈である「男児を祝い、女児を卑しんだ」とする解釈のほうが妥当性を感ぜられる。「食と酒と裁縫をなせ、それが第一だ、夫を立て、父母に心配を掛けさせるな」と、そこには「家の内にのみあるべき性」としての女性性を感ぜられる。ちなみに詩序では宣王による家庭繁栄の祈りの詩である、とする。




■俺の天下は世界一ィィィ


晋書130  赫連勃勃

昔周宣考室而詠于詩人


赫連勃勃が皇帝を自称したときにものした詩の一節である。当詩詩序よりの引用であり、当詩を皇帝即位の祝い唄的に認識していたことが伺われる。しかし宣王の歌で良いのか……晩節はうつくしからぬものであるが……これ詩を書いた漢人士大夫層は「くたばれ宣王みたく」みたいな呪いを仕掛けておらぬか……?




■今を祝おう


魏書8 宣武帝元恪

既禮盛周宣斯干之制,事高漢祖壯麗之儀,可依典故,備茲考告,以稱遐邇人臣之望。


一般的に北魏最盛期を築いたとされる孝文帝のあとを継いだ、宣武帝。彼が狩りに出て、その帰りに下した詔勅の一節である。先帝が築いた世の盛んなるのを受けた、それを祝うために周の宣王が定められた当詩のメンタリティや劉邦が定めた儀礼を踏襲していこう、と語っておる。……しかしこの詩も宣王の詩で良いのか……?




■くましゃん!

「熊羆」と言う表現で、雄々しきもの、といったニュアンスがこもるようである。ここもたくさんあったので解説は略。ちなみに対置さるべき「虺蛇」のヒット数はゼロであった。


・三國志6 劉琮 裴注

太祖曰:「今孤有熊羆之士,步騎十萬,奉辭伐罪,誰敢不服?」

・三國志12 崔琰

袁族富强,公子寬放,盤遊滋侈,義聲不聞,哲人君子,俄有色斯之志,熊羆壯士,堕於吞噬之用,固所以擁徒百萬,跨有河朔,無所容足也。

・三國志24 高柔

陛下聦達,窮理盡性,而頃皇子連多夭逝,熊羆之祥又未感應。

・三國志48 評 裴注

・晋書54 陸機

于時雲興之將帶州,猋起之師跨邑,哮闞之群風驅,熊羆之族霧合。

・晋書6 司馬睿

惟爾股肱爪牙之佐,文武熊羆之臣,用能弼寧晉室,輔余一人。

・晋書23 楽下

・宋書22 楽四

鷙鳥潛藏,熊羆窟棲。

・晋書41 劉寔

使益為虞官,讓於硃虎、熊、羆。

・晋書48 段灼

陛下誠欲致熊羆之士,不二心之臣,

・晋書51 摯虞

睨翟犬於帝側兮,殪熊羆於靈軒。

・晋書51 束晳

蜂蠆止毒,熊羆輟猛,五刑勿用,八紘備整,主無驕肆之怒,臣無犛纓之請,上下相安,率禮從道。

・晋書66 劉弘

若不超報,無以勸徇功之士,慰熊羆之志。

・晋書71 王鑒

熊羆之士,其銳可得而奮。

・晋書78 孔坦

今六軍誡嚴,水陸齊舉,熊羆踴躍,齕噬爭先,

・宋書14 礼一

尋珪璋既玉之美者,豹皮義兼炳蔚,熊羆亦昏禮吉徵,

・宋書21 楽三

熊羆對我蹲,虎豹夾道啼。

・宋書27 符瑞上

應龍攻蚩尤,戰虎、豹、熊、羆四獸之力。

・宋書74 沈攸之

是以朝野審其易取,含識判其成禽,熊羆厲爪,蓄攫裂之心,虎豹摩牙,起吞噬之憤,

・魏書9 元詡

自潘充華有孕椒宮,冀誕儲兩,而熊羆無兆,維虺遂彰。

・魏書24 許謙

將軍據方邵之任,總熊虎之師,事與機會,今其時也。

・魏書24 張袞 曾孫張倫

高祖光宅土中,業隆卜世,赫雷霆之威,振熊羆之旅,方役南轅,未遑北伐。

・魏書74 爾朱栄

遂能大建義謀,收集忠勇,熊羆競逐,虎豹爭先,

・魏書98 島夷蕭衍

今三禮四義之將,豹虎熊羆之士,深銜逋偽信納叛亡,違卜愎諫,實興伐役。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B8%80#%E3%80%8A%E6%96%AF%E5%B9%B9%E3%80%8B

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