車攻(引用1:天子の狩猟風景)

車攻しゃこう



我車既攻がしゃきこう 我馬既同がばきどう

四牡龐龐しぼほうほう 駕言徂東がげんそとう

 われらが国の戦車の防備は整えられ、

 戦車を引く馬もまた防備は万全。

 勇壮なる四頭の馬に命じる。

 さあ、東に行かん。


田車既好でんしゃきこう 四牡孔阜しぼこうふ

東有甫草とうゆうほそう 駕言行狩がげんぎょうしゅ

 猟を行うための車の整備も万全。

 四頭の牡馬の意気も盛ん。

 東の草原には、多くの獲物がいる。

 さあ、狩りに出よう。


之子于苗ししうびょう 選徒囂囂せんとかいかい

建旐設旄けんちょうせつぼう 搏獸于敖たんじゅううごう

 天子が狩りにお出になる。

 伴に選ばれた者たちの意気も盛ん。

 旗を立て、敖の地に出、

 獲物を狩ろう。


駕彼四牡がかしぼ 四牡奕奕しぼえきえき

赤芾金舄せきふつきんせき 會同有繹かいどうゆうしゃく

 四頭の馬を戦車につなぐ。

 四頭ともが生き生きとしている。

 赤い膝掛、金の靴。

 いざ、天子の戦車のあとに続かん。


決拾既佽けつしゅうき 弓矢既調きゅうしきちょう

射夫既同しゃふきどう 助我舉柴じょがきょさい

 弓矢周りの道具をそろえ、

 弓矢そのものの調整も万全。

 天子も同伴者も矢を放ち、

 獲物の獲得の助けとする。


四黃既駕しこうきが 兩驂不猗りょうさんふき

不失其馳ふしつきし 舍矢如破しゃしじょは

 四頭の黄毛の馬が並走し、

 その外に繋がれる添え馬も

 足並みをそろえる。

 その勢いによどみはなく、

 放たれる矢は、過たず標的を射抜く。


蕭蕭馬鳴しょうしょうばめい 悠悠旆旌ゆうゆうはいせい

徒御不驚とぎょふきょう 大庖不盈だいほうふえい

 狩りを終え、城に戻る。

 厩舎で馬のいななきが響き、

 旗が揺らめく。

 狩人が盛り上がらぬことがあろうか、

 食事が豪勢でないことなどあろうか。


之子于征ししうせい 有聞無聲ゆうぶんむせい

允矣君子いんいーくんし 展也大成てんやたいせい

 天子の征討は、大言壮語なく、

 ただ決行され、実現する。

 偉大なるかな君子、

 まことにご立派になられた。




○小雅 車攻


周の宣王の偉業を歌ったとされるので、ここでは宣王について記しておこう。西周末期の王で、父の厲王によってズタボロになった周をわずかに盛り返したとされる。もっとも当詩や前詩、前々詩で歌われている外征政策も、在位期間後期には大分押し込まれてしまったそうである。そして死去後その跡を継いだ幽王は、褒姒という女性に入れあげまくっても犬戎の侵入を許し、国を滅ぼした。なお東周を立てることになる平王は、幽王による褒姒の寵愛を諫めた挙句幽王に廃嫡を受け、追放のような状態になっていた。以上の来歴を踏まえれば、当詩のごときは周の国に何とか保ってほしいという悲鳴のような思いも感ぜざるを得ぬ。




■ヘーカしゅごい!


晋書129 沮渠蒙遜

臣聞少康之興大夏,光武之復漢業,皆奮劍而起,眾無一旅,猶能成配天之功,著『車攻』之詠。


すごい名前の人物が来た。晋書載記に載る、五胡十六国は北涼の王で、権謀術数の鬼である。東晋将(のちの宋武帝)劉裕が武将の朱齢石を遣わせて蜀の反乱を鎮めると、朱齢石が彼のもとに使者を飛ばしてきた。上記は、その返礼文における一節である。少康は夏の六代目の王で、父を反逆者に殺されたため、身一つで立ち上がり、反逆者を討ち果たしたという武勲を持つ。光武帝は言うまでもなく、後漢を打ち立て「漢復興をなした」英雄。彼らの偉業は天の配剤によるものであり、それはまさしく当詩に歌われている通りである、と言う。安帝の功績を、彼らと並べ、讃えたのである。こののち沮渠蒙遜は、あなた様が長安洛陽の奪還を目指されるのであれば、協力しますよ、と申し出ている。のわりに劉裕が後秦を討ち果たしておるのには激怒しておるのだが。まぁ、この頃の劉裕はもはや「晋の臣下」ではなく「簒奪狙いの梟雄」であったから、沮渠蒙遜の怒りもむべなるかな、と言うところではあるのだが。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81#%E3%80%8A%E8%BB%8A%E6%94%BB%E3%80%8B

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