彤弓(引用6:褒賞として授けられる弓)

彤弓とうきゅう



彤弓弨兮とうきゅうしょうけい 受言藏之じゅげんぞうし

我有嘉賓がゆうかひん 中心貺之ちゅうしんきょうし

鐘鼓既設しょうこきせつ 一朝饗之いっちょうきょうし

 弦なくして反り返る朱塗りの弓。

 頂戴したそれを、大事に保管する。

 それは、我が元に

 神霊が降り来たに等しい。

 心底よりそれを祝い、喜ぶ。

 鐘を鳴らし、宴を開こう。


彤弓弨兮とうきゅうしょうけい 受言載之じゅげんたいし

我有嘉賓がゆうかひん 中心喜之ちゅうしんきし

鐘鼓既設しょうこきせつ 一朝右之いっちょううし

 弦なくして反り返る朱塗りの弓。

 頂戴したそれを、大事に承る。

 それは、我が元に

 神霊が降り来たに等しい。

 心底よりそれを祝い、喜ぶ。

 鐘を鳴らし、宴を開こう。


彤弓弨兮とうきゅうしょうけい 受言櫜之じゅげんとうし

我有嘉賓がゆうかひん 中心好之ちゅうしんこうし

鐘鼓既設しょうこきせつ 一朝醻之いっちょうしゅうし

 弦なくして反り返る朱塗りの弓。

 頂戴したそれを、大事に保管する。

 それは、我が元に

 神霊が降り来たに等しい。

 心底よりそれを祝い、喜ぶ。

 鐘を鳴らし、宴を開こう。




○小雅 彤弓


諸侯が大功を挙げた時、君主より殊勲の証としてこの弓が下賜された、という。もともとは「単なる大武勲の報酬」であったのが、こうして歌われることにより意味合いが高められ、最終的には九錫、つまり天子が次代の天子に全権を委任する茶番にて用いられるものにまで奉られてゆく。

次いで言えば、当詩における「嘉賓」は、他詩では「良き賓客」でも通じたが、ここではさすがに新釈漢文大系にて指摘を得ている「神霊」とせねば意味が通りづらいのを感じた。この辺りに、詩経という一冊の書の中でも、各詩の成立に時代の隔たりを感ぜられる。




■彤弓一,彤矢百,盧弓十,盧矢千。

・三國志1 曹操

・三國志47 孫権

・晋書2 司馬昭

・宋書2 武帝中


いわゆる九錫授与をもたらす文の一部である。どこにもまるまる同じ内容が載る。ちなみに宋書楽志には司馬昭が九錫を得たことを歌った詩がある。


・宋書21 周西 短歌行

晉文亦霸,躬奉天王。受賜珪瓚、秬鬯彤弓、盧弓、矢千,虎賁三百人。


これらの元ネタは尚書の周書文侯之命。それを王莽が再編して援用したものを代々の皇帝たちが受け継ぐ、実に生臭き由緒正しさであるな。




■葬儀の音楽どないすんねん


魏書108-4 礼志四

案詩云『鍾鼓既設』,『鼓鍾伐鼛』,又云『於論鼓鍾,於樂辟雍』。言則相連,豈非樂乎?


詩経において「鐘が鳴る」ことを述べられた箇所を挙げている。なおこの議論がなされているのは「葬儀で音楽を流すべきか?」であり、正直内容はえらく込み入っていてよくわからぬのだが、どうも最終的には「葬儀で音楽流すと喪主がキツいしやめておいた方がいんじゃね?」となったようである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81#%E3%80%8A%E5%BD%A4%E5%BC%93%E3%80%8B

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