湛露(引用6:主の恩徳、そして宴)
しとどなる夜露は、朝まで乾かぬ。
この夜を、飲みて過ごそうぞ。
酔わずば帰すまい。
しとどなる夜露は、草花を濡らす。
この夜を、飲みて過ごそうぞ。
先祖の霊も見守ってくださっている。
しとどなる夜露、ヒイラギの棘に。
宴に連なる君子は、みな立派。
どの方も徳に違うことはない。
キリとイイギリの木にも、
それぞれにたわわに実がみのる。
くつろぎ楽しむ君子は、
酔うても礼儀に違うこともない。
○小雅 湛露
「しとど酒に濡れくつろぐ君子ら」とは、また何ともエロい表現であるな。この歌をバックに、天子が諸侯らを宴会にてもてなすのである、と言う。
■涙がほろり
晋書31 左貴嬪
涕如連雲,淚如湛露。
西晋左氏は左思という大文人を輩出した血筋で、その妹である彼女もまた武帝のもとに輿入れして後も文才を示し続けた。ここに出てくる語句は武帝の母、楊皇太后が崩御した時のもの。細かな内容はさておき、「葉を湿らさんがごとくに涙する」と、お前その華やかさって葬儀の時に使っていいボキャブラリじゃねえだろうという感じがしてよい。
■宴会場の名称に
晋書122 呂纂
既而纂見紹於湛露堂
呂纂とは後涼の初代・呂光亡き後に政権を簒奪した人物である。簒奪者が「纂」とはまた皮肉が利いていてよいな。そしてここに呂紹と言う人物が出てくるが、彼が呂纂を食らった側である。つまり呂紹は「改めてお前と君臣の契りを交わしたい」と語るために湛露堂に呂纂を呼び出したが、最終的には廃されましたよ、という悲しきお話である。
■露の恵みと霜の厳しさ
・晋書30 刑法志
・宋書57 蔡廓
長貞一以閑其邪,教禁以檢其慢,灑湛露以流潤,厲嚴霜以肅威。
東晋を簒奪した桓玄が、過去に禁止された肉刑(膝の皿を切除、四肢を断つ、など)を復活させたい、と言い出した時、ご意見番であった蔡廓が賛同意見を述べている。「民を従えさせるには飴と鞭が必要やで」とし、その中で「恵みのしずくで潤し」、厳しき霜で引き締めるべきだ、と語るのである。なおこの議論は反対多数で棄却された。
■陛下が畑を耕された! 素敵!
晋書55 潘岳
若湛露之晞朝陽兮,眾星之拱北辰也。
司馬炎は皇帝即位後、自ら畑仕事に携わったことがあった。その様子を「下々の苦労をおもんばかられる陛下ステキ!」とばかりに当代最強の詩人と言われる潘岳が詩をものした。その一節である。「葉につく朝露が朝日に輝くのを見て、天の北極の周りを星々が巡るさまを思い出す」とのたまうわけである。なお潘岳は「権勢欲ブリバリ、おもねり、へつらいがヤバい」と言う人品であり、その人品を踏まえると「この俺のあり余る才で陛下のご機嫌を買ってやる」的気概が感ぜられ、とても良い。
■冬の楽しみ
魏書36 李順 曾孫李騫
起白雪於促柱,奉綠水於危弦。賦湛露而不已,歌驪駒而未旋。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkokugokokubun/48/0/48_65/_pdf/-char/ja
引用は、上掲論文が解説している「釋情賦」より。李騫が父によって切り開かれた地に隠棲し、その楽しみを歌っている中の一節である。冬に「湛露」について賦す、と言っておるので、この詩には直接かかってはおらぬのやもしれぬ。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81#%E3%80%8A%E6%B9%9B%E9%9C%B2%E3%80%8B
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