文選補亡 南陔(孝子の敬慕)

南陔なんがい



循彼南陔じゅんかなんがい 言采其蘭げんさいきらん

眷戀庭闈けんれんていい 心不遑安しんふこうあん

彼居之子かきょしし 罔或游盤もういくゆうばん

馨爾夕膳せいじせきぜん 絜爾晨飡けいじしんしょく

 南の土手に沿い、ランの花を摘む。

 家の仕事に気を取られ、心もそぞろ。

 親元にいる子は遊びほうけないもの。

 夕食が薫り高く並べられ、

 朝食も爽やかに整う。


循彼南陔じゅんかなんがい 厥草油油けつそうゆゆ

彼居之子かきょしし 色思其柔しきしきじゅう

眷戀庭闈けんれんていい 心不遑留しんふこうりゅう

馨爾夕膳せいじせきぜん 絜爾晨羞けつじしんしゅう

 南の土手に沿い、草花が生い茂る。

 家の仕事に気を取られ、心もそぞろ。

 親元にいる子は

 優しき顔を見せたいもの。

 夕食が薫り高く並べられ、

 朝食も爽やかに整う。


有獺有獺ゆうてんゆうてん 在河之涘ざいかしし

淩波赴汨りょうはふいつ 噬魴捕鯉ぜいほうほり

嗷嗷林烏ごうごうりんう 受哺于子じゅほうし

養隆敬薄ようりゅうけいぼ 惟禽之似いきんしじ

勗增爾虔きょくぞうじけん 以介丕祉しかいひし

 カワウソ、カワウソ。川のほとりの。

 波を超え淵に向かい、

 オシキウオを食べ、コイを捕る。

 カラスが林でかあかあと鳴き、

 口移しで、子から餌をもらう。

 親を養うのはカラスでもできる、

 そこに必要なのは敬慕の年である。

 お前もしっかりと親に努めれば、

 大いなる幸を得られるであろう。




○文選補亡詩 南陔


詩経には題名だけあって本文の載らぬ詩が六つある。晋の詩経学者であった束晳という人物が、この六つがどのような詩であるかを深く考察し、作詞した。それが梁の時代に残された名文アラカルト「文選」に載る補亡詩六首である。はっきり言って取り扱う必要もないのだが、何となく悔しいので採録する。


当詩は親孝行がテーマになっておる。何のこともない日常が描かれ、親と共に過ごす毎日、やがて子が育てば、年老いて以前のような仕事をなせなくなった両親を養うに至る。しかし論語にも言う、親を養うだけならば獣でもできる、と。獣と人を分かつのは敬慕の念である、と。

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