杕杜(引用2:任務からの帰還を労う)
そそり立つアカナシの木に、
たくさんの実がなっている。
しかし自分はアカナシの実のように、
家族とともにあることはあできぬ。
お役目を疎かにするわけにもゆかず、
日々、お務めに励まねばならぬ。
いつ帰れるのかと日月を数え、
もう、十月にもなってしまった。
妻もまた、傷ついておろう。
夫は、いつお役目から
解放されるのであろうか。
そそり立つアカナシの木に、
ふさふさと葉が茂っている。
お役目を疎かにするわけにもゆかず、
我が心は傷つき、悲しむ。
お役目をこなすうちに、
ついに歳も明けてしまった。
妻もまた、傷ついておろう。
夫は、いつお役目を終え
帰途につけるのであろうか。
北の山に登り、クコの実をとる。
お役目を疎かにするわけにもゆかず、
父母にもまた、心配をかける。
帰途に就く戦車はズタボロとなり、
それを引く馬も疲弊している。
あぁ、しかし、妻よ。
夫はもう、遠からぬところにいる。
次々に帰還する軍の戦車に、
しかし夫の姿はない。
あぁ、夫はどうしてしまったのか。
本当であれば、すでに帰還の
期日であるというのに。
心配が募るあまり、占ってみた。
いずれも「まもなく帰還」が答え。
ならばもう、
お近くにいらっしゃるのか。
○小雅 杕杜
展開、場面描出が随分ドラマティックである。上三連では夫サイド、下一連では妻サイドの想いがあらわされる。最終連ののちに待ち受けるのであろう幸福は第三連の内容で担保されているが、ここにハッピーエンドそのものが描かれておらぬのが、実によい。それを詩を味わう者の中に描かせようと言うのは、実に小憎い演出ではないか。
■蔡謨さん、楽礼について語る
晋書21 禮下
故『詩序』曰:'皇皇者華,君遣使臣也。'又曰:'『采薇』以遣之,『出車』以勞還,『杕杜』以勤歸。'皆作樂而歌之。
東晋中期の名臣、蔡謨が皇帝に対して宮廷音楽の必要性を説いている。『皇皇者華』では、臣下を派遣する時に音楽を伴う事で威厳を明らかにするのだとし、『采薇』は地方守備の兵が出征する際に歌われ、『出車』は戻ってきた兵をねぎらい、そして『杕杜』にて帰ってきたものに対し勤めるのである。いずれにせよ音楽を鳴らし、それを歌う事によって気持ちが高められる、とする。そのうえで「間違っても娯楽のためのもんじゃねえから浮かれんじゃねえぞおい」と釘を刺してこられるのである。
■ルールは守らせようや、な?
魏書21上 元雍
臣聞君舉必書,書而不法,後代何觀。詩云:「王事靡盬,不遑啟處」,又曰:「豈不懷歸,畏此簡書」。依依楊柳,以叙治兵之役;霏霏雨雪,又申振旅之勤。若折往來日月,便是採薇之詩廢,杕杜之歌罷。
元雍は北魏孝文帝の弟。孝文帝死後宣武帝、孝明帝の治世で宰相的立場にあった。上記は孝明帝即位時に人事のルールを定めたい、とした時の上表のうちの一節である。きちんと基準は書面として表し、そこをしっかり守らないのであれば、いったい誰がお国に従って軍旅になぞ出ようなどと思うのか、……といった内容であろうか。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B9%9D#%E3%80%8A%E6%9D%95%E6%9D%9C%E3%80%8B
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