鴟鴞(引用5:絶えず降りかかる苦難)
フクロウ、フクロウよ。
わが子を奪った挙句、
わが家庭をも壊そうとしてくれるな。
わが子のために努めてきたというに、
ああ、残された子が哀れでならぬ。
曇った空より雨が落ちぬうちに
クワの根で雨除けを作り、
巣の窓を作ろう。
下界の者たちよ。
私を侮ってくれるな。
疲労にすぼまったわが手で、
アシの穂を取る。
食べ物を拾い集めるこの嘴も、
やはり、疲れ切ってしまった。
いまだ巣はしっかりと
整っていないというのに。
我が羽は破れ、我が尾は綻び、
我が巣は危うい。
風や雨に揺さぶられ、
私は悲痛の声を上げるしかない。
○国風 豳風 鴟鴞
悲運に遭遇した親鳥を主人公とした詩、となろう。そこに描かれているのは苦難に面し、懸命に踏みとどまるけなげな親鳥の姿。ただしこの詩は尚書の周書金縢に「周公旦が作った」と書かれておる(公乃為詩以貽王,名之曰「鴟鸮」)。このような詩での「素朴な理解」との距離感を思えば、なるほど、確かにこれまでの諸詩でも儒家センセーの解釈に一定の説得力を帯びずにはおれぬ気もする。
○儒家センセー のたまわく
当詩で描かれておるのは周公旦が武王亡き後の補政を任された時の思いである! 殷の旧王族を幾分なりとも重く扱ったところ彼らが謀叛をたくらむわ、それを平定しようと出征すれば背後で成王が周公旦を疑うわで、踏んだり蹴ったり! 「もうマジ勘弁して」とばかりに周公旦はこの詩を詠んだのである!
■司馬攸様マジ大切
晋書50 曹志
後雖有五霸代興,桓、文譎主,下有請隧之僭,上有九錫之禮,終於譎而不正,驗於尾大不掉,豈與召公之歌『棠棣』,周詩之詠『鴟鴞』同日論哉!
曹志はあの曹植の息子。やはり文義にたけておったそうである。晋武帝司馬炎にもよく仕えた。司馬炎が弟の司馬攸の権勢を恐れ左遷しようとした時、曹志が左遷反対の上奏をしたためておる。上記はその一節である。前段で君主を真に助けるのは周公旦や太公望のような人物のみであり、下った時代の春秋五覇とて結局は君主をたばかっていた。ならば司馬攸様のようなお方をそばにとどめ置かねば、小雅『棠棣』や当詩の歌うような状況が現れてしまいますぞ、と諫めたのである。この上奏に司馬炎は激怒、曹志は左遷された。
■罪は裁くべき
晋書124 慕容盛
不臣之罪彰于海內,方貽王『鴟鴞』之詩,歸非於主,是何謂乎!
慕容垂の孫である彼は、父である慕容宝が慕容垂のあとを継ぐも周辺豪族によって殺された、さらにその後を継がねばならぬ立場にあった。周辺豪族に復讐を果たしたのち政権を握ると、群臣とともに周公旦の偉業について話し合う。その中で言っておるセリフである。臣ならざるものを放置しておけば、当詩が描くような状況が生じてしまおう、というのである。なお彼は聡明な人物ではあったが、結局まわりから恨みを買い、殺されている。
■劉義康様は周公旦レベル
・宋書69 范曄
于茲六稔,蒼生飢德,億兆渴化,豈唯東征有鴟鴞之歌,陝西有勿翦之思哉。
後漢書の著者として有名な范曄は、劉宋文帝劉義隆を排し、その弟である劉義康を皇帝につけるべく画策し失敗、処刑されている。この計画に同調した孔熙先という人物がしたためた檄文中で、今天下の人々は世の徳化を望んでいる。それは何も当詩に歌われるような状況や、「勿翦の思」=召南甘棠に周公旦の徳が歌われるような状況ばかりのことでもあるまい、というのであるが、……いや、ここで引き合いに出すべきはやはり棠棣なのではなかろうか?
■前廃帝はクソ
・宋書84 鄧琬
恣鴟鴞之心,蹈倫、穎之志,覆移鼎祚,誣罔天人。
劉宋孝武帝のあとを継いだ劉子業はゴミクズであり、廃位ののち「前廃帝」と呼ばれるようになった(無論後廃帝も存在しており、こちらもなかなかのクソである)。前廃帝を葬らんと決起した鄧琬が檄文中で語ったのが上記である。当詩に言われるようなフクロウの凶暴性をむき出しとして、八王の乱にて国をぐちゃぐちゃにした司馬倫や司馬穎レベルのゴミクソカスな行為によって、よくもまぁ国の威徳を失墜させてくれたなおい、と語るのである。
■おらが国の現況がクソ
魏書19中 元雲 子元順
鴟鴞悲其室,採葛懼其懷。小弁隕其涕,靈均表其哀。
元順が活躍していたのは北魏末期、霊太后が宮中でブイブイ言わせていたころである。当詩、王風采葛、そして小雅小弁。最後のやつは楚辞に登場する屈原のあざなであるから詩経よりの引用ではないが、いずれにせよ臣下が国の政を不安視する詩である。そして彼も最終的には北魏を転覆させた爾朱栄の乱に巻き込まれ、命を落とした。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%85%AB#%E3%80%8A%E9%B4%9F%E9%B4%9E%E3%80%8B
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