崔浩コラム⑪ ダンショーシュギ

ごきげんよう。崔浩である。

作者がマヌケな勘違いをしておったため、

そちらを晒すこととした。


今回取り上げるテーマは

「断章取義」。


なにか引用をなすとき、

いちいち引用元全体の意味なぞ拾わず、

その語句のみで用いてしまえば

よいのではないか?

とする姿勢である。


儒の経典を調べるとき、この言葉は

ちらほら視界に入ってくる。

が、作者はスルーしていた。


「えっ断章“主義”ってなに……

 なんかの学派なの、こわっ……

 近づかんとこ……」


が、その理由である。

まぁ、主義といえば主義であるがな。



○衛風 伯兮


 伯兮朅兮 邦之桀兮

 伯也執殳 為王前驅


 自伯之東 首如飛蓬

 豈無膏沐 誰適為容

  

 其雨其雨 杲杲出日

 願言思伯 甘心首疾


 焉得諼草 言樹之背

 願言思伯 使我心痗


「伯」は威風堂々と出征。

見送る者は、伯を頼もしく思い、

他方、伯を心配し、心乱される。


そこに描かれるは、

見送るものの割り切りがたい思い。

人を愛するものが抱く、

美しき心情であると言える。



これを引用するのが、

世説新語 言語56である。


 簡文作撫軍時,

 嘗與桓宣武俱入朝,更相讓在前。

 宣武不得已而先之,

 因曰:

「伯也執殳,為王前驅。」

 簡文曰:「所謂

『無小無大,從公于邁』。」


東晋の、おそらくは穆帝あたりに

謁見する桓温と、司馬昱(後の簡文帝)。


両名は、様々なメンズがいちゃこらする

世説新語中においても、トップクラスの

いちゃこらっぷりを見せる。

その両名が謁見の間に出るにあたり、

どちらが前に出るかを譲り合った。

偉いやつが前、が、まあ普通であろう。


司馬昱は元帝の末子。

のちに皇帝にもなる、ド貴種である。

一方の桓温も、当時の東晋では、

最もすごい将軍、あたりの地位を

獲得しておる。


そんな二人が熾烈なる

譲り合い合戦を繰り広げた結果、

前に桓温、後ろに司馬昱となった。


前に出ねばならなくなった、桓温。

居心地が悪くなったか、

伯兮の第一連を歌う。

「伯」、即ち桓温は

「王」、即ち「会稽王」司馬昱の

先駆けとなりますよ、そう歌った。


さて、ではここに、

いかほど第二連以降の内容が

反映されているであろうか。


ひとまずは、司馬昱の返歌を見よう。

やはり詩経よりの引用。

魯頌「泮水」である。

その詩はいわば英雄叙事詩である。

内容も、誰もが「公」に付き従うのだ、

そう語っておる。


両名の歌を組み合わせると、

王のための先駆けを請け負う、

勇ましき名将。彼の武勇を慕い、

皆が後について行く、となる。


つまり、伯兮第二連以降の内容は、

一切考慮されておらぬ訳である。



○え? それって雑じゃね?


無論、どこでやっても良い、

というわけでもなかろう。


例えば、理論の精を尽くす議論で

そんなものをやらかせば、

何お前ちゃぶ台返してやがんだ、

となろう。


上で示したシーンも、

また、調査の折に拝読した

中国古典と教養--言語生活の一側面--

藤川正数、1967

http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/metadata/3325?l=en

において示される『春秋』中の実例も、

宴的な場での雅詞交換、

言い換えれば、ライムバトルの場での

運用が多い印象である。


ホイホイと使えば、それはもう

こんにち的な断章取義の用法である、

「枝葉些末にこだわり、

 議論の本筋をシカトする」

的振る舞いになってしまいかねぬ。


結局、取り扱い注意な振舞いである。



○シラネーヨ


そして、ちゃぶ台を返す。

「ならばこそ」好きにやると良い。


ただしそこは弱肉強食のジャングルである。


断章取義的に遊ぶとは、

すなわちおのが言語センスを

試されることになる。


妥当性をかけば白けられ、

妥当であってもつまらねば白けられる。


……こうして書いてきたところ、

「なんだ、ようは換喩ジャネーノ」

となってしまい、戸惑っている。


まあ、言葉遊びなぞ

「うまく行けば盛り上がるが、

 失敗すると寒い」

以外、言いようがないな!


どうせ断章取義を決めるのであれば、

少しでもおもしろいやつを

決めたいものである。

気の利いたことを言うつもりなくば、

そもそも比喩なぞ

用いねば良いのであるしな。


このカクヨムにおいて、

わざわざ詩経読みを晒していこう、

などという作者の振舞いが、

既に傾いておるのだ。

なら、少しでも読者諸氏に

楽しんで頂けるよう

振る舞いたいものである。



では、また次回。

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