葛生(引用4:連れ添いの喪失/戦乱を嘆く)

葛生かつせい



葛生蒙楚かつせいもうそ 蘞蔓于野れんまんうや

予美亡此よびぼうし 誰與獨處せいよどくしょ

 クズのつたはイバラに絡み、

 カラスシャクシのつたは野にはびこる。

 私のよき人はここにはいない。

 かわりに、誰と共にあれと言うのか。


葛生蒙棘かつせいもうきょく 蘞蔓于域れんまんういき

予美亡此よびぼうし 誰與獨息せいよどくそく

 クズのつたはイバラに絡み、

 カラスシャクシのつたは墓場にはびこる。

 私のよき人はここにはいない。

 かわりに、誰と過ごせと言うのか。


角枕粲兮かくしんさんけい 錦衾爛兮きんきんらんけい

予美亡此よびぼうし 誰與獨旦せいよどくたん

 遺骸を載せる枕は豪華、

 その死に装束も見事。

 私のよき人はここにはいない。

 かわりに、誰と朝を迎えよというのか。


夏之日かしじつ 冬之夜とうしや

百歲之後ひゃくさいしご 歸於其居きおききょ

 夏が過ぎ、冬を越え、

 百年ののちには、そなたのもとへ。


冬之夜とうしや 夏之日かしじつ

百歲之後ひゃくさいしご 歸於其室きおきしつ

 冬を越え、夏を過ごし。

 百年ののちには、そなたと共に。




○国風 唐風 葛生


大切な人を失い、ただ時が過ぎていく。しかし心に空いたその穴が埋まる気配は、一向にない。想いは百年ののち、同じ墓に収まることにより、ようやく埋められるのであろう。何とも悠遠なる別離の悲しみである。




○儒家センセー のたまわく


晋の献公は戦狂いであった! そのため多くの者が戦に散って行った! 連れ添いを失う悲しみを通し、献公を批判したのがこの詩である!




■裴松之センセーにフェイクを仕掛けられる


・三國志32 諸葛亮伝裴注

葛生行己,豈其然哉!

・三國志42 譙周伝裴注

葛生有云:「事之不濟則已耳,安能復為之下!」


よくわからぬのだが、裴松之は三國志中のこの二箇所においてのみ、諸葛亮を「葛生」と呼んでおる。これは「死後ずいぶん経ってしまった、敬服してやまぬ諸葛亮さまを偲ばんとした想い」から来たのかな。恐らく違うような気もするのだが、まぁ、そう言う事にしておくと面白いのでそう言う事にしておこう。なにせどちらも「諸葛亮さまカッコイイ!」を主張したい箇所での利用なのである。




■ツタの繁茂は衰亡の証


宋書21 『夏門』『步出夏門行』

夜失羣侶,悲鳴裴回。芃芃荊棘,葛生綿綿。感彼風人,惆悵自憐。


楽志作品における引用は、なかなか含意を取りづらい。詩全体を読む感じだと悲壮感が漂っており、ここでも衰亡の悲しみのうちにイバラやツタの繁茂するさまが描かれておる。




■文人、友人を殺す


世説新語 排調36

袁羊嘗詣劉恢,恢在內眠未起。袁因作詩調之曰:「角枕粲文茵,錦衾爛長筵。」劉尚晉明帝女,主見詩,不平曰:「袁羊,古之遺狂!」


袁喬という文人が、友人の劉恢のもとに訪れたところ、全然劉恢が起きてこぬ。そこで読んだ詩が当詩を題材としたもの。つまり「おっ、もしやお前死んだか!?」と嘲った。その詩を読んだ劉恢の妻(東晋明帝の娘)は、袁喬を「その古ドグサレが!」と罵った、というわけである。初めて読んだ時、まるで分らぬので大混乱したものである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%85%AD#%E3%80%8A%E8%91%9B%E7%94%9F%E3%80%8B

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