杕杜(縁なきひとの孤独/縁者を頼れぬ君主)

杕杜ていと



有杕之杜ゆうていゆうと 其葉湑湑きようしょしょ

獨行踽踽どくこうくく

豈無他人がいむたじん 不如我同父ふじょがどうふ

嗟行之人さぎょうしじん 胡不比焉こふひえん

人無兄弟じんむけいてい 胡不佽焉こふしえん

 一本のみで立つヤマナシの木は、

 その葉こそ茂っているけれど。

 一人寂しくゆく旅人かのよう。

 辺りに他人はたくさんいる。

 しかし誰もが、かれの父ではない。

 ああ、道ゆく人。

 どうして私と親しんではくれぬ。

 無論、あなたがたは兄弟ではない。

 けれど、少しは助けてくださっても

 良いだろうに。


有杕之杜ゆうていゆうと 其葉菁菁きようせいせい

獨行睘睘どくこうけいけい

豈無他人がいむたじん 不如我同姓ふがじょどうせい

嗟行之人さぎょうしじん 胡不比焉こふひえん

人無兄弟じんむけいてい 胡不佽焉こふしえん

 一本のみで立つヤマナシの木は、

 その葉こそ青々としているけれど。

 一人寂しくゆく旅人かのよう。

 辺りに他人はたくさんいる。

 しかし誰もが、かれの家族ではない。

 ああ、道ゆく人。

 どうして私と親しんではくれぬ。

 無論、あなたがたは兄弟ではない。

 けれど、少しは助けてくださっても

 良いだろうに。




○国風 唐風


ひとりゆく旅人の孤独や悲しみ。旅人とは「よくわからぬ、胡散臭い人」であり、どうしても村というコミュニティが世界の大半となる人々には受け入れがたき存在だったのであろう。「助けてほしい」と表明することが命取りになる世界も、確かに存在する。あるいはこの詩人も、思いこそ抱き、歌にこそ残せど、他者にはその思いを打ち明けはせなんだのやも知れぬ。「助けてほしい」と口にする事こそが美徳である、という世界に生きておれることに感謝せねばならぬ、とふと感じた次第である。




○儒家センセー のたまわく


当詩は晋の荘公ががその近親者、即ち桓叔に助けを得られぬでいたことを批判したものである! 助けを得るどころか、謀反まで起されるのであるからたまらぬな!




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%85%AD#%E3%80%8A%E5%B1%B1%E6%9C%89%E6%A8%9E%E3%80%8B

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