伐檀(引用5:君主の怠惰を監視)
かんかんとムクの木を切り、
材木として川岸近くに置く。
普段濁っているはずの
黄河の水が、突然澄んだ。
さざ波が水面を走る。
植え刈りもせずに、
何故三百件分の稲を取るのか。
狩猟したわけでもないのに、
何故ムジナが庭先にかかるのか。
かの君子であれば、
無駄食いなぞせぬであろうに。
かんかんとムクの木で車軸を作る。
できたものを川岸近くに置く。
普段濁っているはずの
黄河の水が、突然澄んだ。
ひたひたと波が寄せる。
植え刈りもせずに、
何故三十万件分の稲を取るのか。
狩猟したわけでもないのに、
何故けだものが庭先にかかるのか。
かの君子であれば、
無駄食いなぞせぬであろうに。
かんかんとムクで車輪を作った。
出来上がったものを川岸近くに置く。
普段濁っているはずの
黄河の水が、突然澄んだ。
さざ波が水面を走る。
植え刈りもせずに、
何故蔵三百件分の稲を取るのか。
狩猟したわけでもないのに、
何故ウズラが庭先にかかるのか。
かの君子であれば、
無駄食いなぞせぬであろうに。
〇国風 魏風 伐檀
ムクの木は非常に頑丈であるため、車のような、重いものを載せるもののために用いられるのだという。黄河の水が澄み渡るのは、数百年に一度の奇跡。そう言ったものを目の当たりとしつつ、仕立て上げられた車で運ぶのは、農民猟民が汗水たらして手に入れた労働の成果。さて、領主さま、いま目前でめでたい奇跡が起こっているとは申せ、これらをまさか無駄飯ぐらいのためには使ってくださいますまいな、というのは、ずいぶんと皮肉や批判の風合いが込められているようにも思われるが、さて。
〇儒家センセー のたまわく
国君が貧しき国にあって貪欲であることを批判するのである! 君子は自らの力によって得たもの以外は食さぬが本来の姿である! なれどいま、この君主は領民より多くの職を巻き上げておる! これが果たしてよき君主の姿であると言えようか!
■褒賞授与は慎重に
三國志3 明帝
魚豢曰:爲上者不虛授,處下者不虛受,然後外無伐檀之歎,內無尸素之刺,雍熙之美著,太平之律顯矣。
上役はホイホイと褒美を与えず、下の者はホイホイと受け取らないようにする。そうすることによって空疎な褒賞がなくなり、当詩で歌われるような無意味な乱獲も無くなろう、と語る。無論こう言う事が書かれるのは、明帝の御世にいた佞臣・孔桂が見事にこの逆を行って所領を荒らしたがゆえである。
■
三國志巻19
君無虛授,臣無虛受;虛授謂之謬舉,虛受謂之屍祿,詩之『素餐』所由作也。
■
晋書巻9 簡文帝本紀
使善無不達,惡無不聞,令詩人元素餐之刺,而吾獲虛心之求焉
晋の簡文帝陛下は仰る。我が元に良き者の評判が届かぬことが、悪しき者の悪評が届かぬことがなきようにせよ、と。詩人は我が元に「素餐の刺」を届けよ、即ち怠惰を常に監視せよ。かくして我が元に有為な人材が集まるのである。「元」字をどう扱うかが難解であるが、おおよそではこのような感じであろう。なお簡文帝陛下は即位一年もせずに亡くなり、「有為の人材」は次代の
■晋武帝への忠告
晋書48 段灼
朝廷詠康哉之歌,山藪無伐檀之人,此固天下所視望者也。
段灼ははじめ鄧艾の属官として働いたが、その後武帝に多くの進言をなし、重んじられた人物である。しかし出身が卑しかったため昇進は叶わず、やがて田舎に引っ込むこととなった。その際、武帝に「くれぐれも安逸にうつつを抜かさないでくださいね」と釘を刺す上表をしたためておる。さすれば「朝廷では康哉の歌(尚書に乗せられている、世の平和を称賛する歌)」が歌われ、むやみやたらと領民から収奪するようなものもあらわれまい、と説くのである。上表本文はすさまじい長さであるが、およそフラグとして成立しているからこその採用なのであろう。
■賢王はよく見ていらっしゃった
晋書68 紀瞻伝
先王身下白屋,搜揚仄陋,使山無扶蘇之才,野無『伐檀』之詠。
かの陸機と政治に関する議論をなした折の発言。陸機が提示した「聖王は常に賢才を求めた。なぜなのであろうか?」というテーマに対する答えの一節である。賢王は粗末な居室に留まり、市井の賤しきものに至るまで賢才を探し、掬い上げた。故に「扶蘇」詩に歌うようなものも蔓延らず、当詩に歌われるような無様な政も行われなかった、と語るのである。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%94#%E3%80%8A%E4%BC%90%E6%AA%80%E3%80%8B
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