南山(嫁に出た子に恋慕/兄妹の乱倫)

南山なんざん



南山崔崔なんざんさいさい 雄狐綏綏ゆうこすいすい

魯道有蕩ろどうゆうとう 齊子由歸さいしゆき

既曰歸止きじつきし 曷又懷止かつさかいし

 高くそびえる南山に、

 オスの狐がゆうゆうと進む。

 魯の国に向かう道はなだらか、

 斉国の姫が嫁ぎゆく。

 もう、彼女は嫁いでいったのだ。

 何を今更恋慕しているのだ。


葛屨五兩かつくごりょう 冠緌雙止かんずいそうし

魯道有蕩ろどうゆうとう 齊子庸止せいしようし

既曰庸止きえつようし 曷又從止かつさじゅうし

 葛で編んだ靴が互いに並ぶ。

 冠のひももふたつ。

 魯の国に向かう道はなだらか、

 斉国の姫が嫁ぎゆく。

 もう、彼女は嫁いでいったのだ。

 何を今更追いかけようとなさる。


蓺麻如之何しつまじょしか 衡從其畝こうじゅうきほ

取妻如之何しゅさいじょしか 必告父母ひつこくふぼ

既曰告止きえつこくし 曷又鞠止かつさじゅうし

 アサはどのように植えるのか?

 あぜ道を縦横にぴっちり揃えように。

 妻を娶るにはどのように振る舞うのか?

 父母に告げ、許しを得るであろうに。

 すでに彼女は父母に告げ、

 嫁ぐ許しを得ているのだ。

 どうして欲望の赴くままであろうとする。


析薪如之何せきしんじょしか 匪斧不克ひふふこく

取妻如之何しゅさいじょしか 匪媒不得ひばいふとく

既曰得止きえつとくし 曷又極止かつさきょくし

 薪を割るにはどうすれば良い?

 斧を用いねば割れるまい。

 妻を娶るにはどのように振る舞うのか?

 仲人を立てねばなるまい。

 既に他者との間に仲人が立っている。

 なぜそれでも、己が欲求を

 押し止めようとしないのだ。




○国風 齊風 南山


斉の国から魯の国に旅立たんとする嫁(魯は斉から見て西南西くらいの位置づけの隣国である)が、自分の想い人であった。果たして彼女との間柄はどれだけ深かったのであろうか。少なくとも歌唱者の想いは相当であったようだが。ただし、彼の振舞いは、この詩が歌われた当時にあってすら「斉という偉大な国に現れた、道徳を見失ったもの」として表されている。南山を進む狐、の比喩がそれである。男のふるまいは規範意識に著しく欠けたものであるし、またしきたりをつき崩せるほどの強さもない。周囲よりは、ただ「道を外れたもの」とのみ指弾を受けるのである。




○儒家センセー のたまわく


斉の襄公は妹の文姜とさんざんおセッセセしていたが、やがて彼女を魯国に出さねばならなくなった! 嫁ぎ先であった魯の桓公は嫁とその兄の不義を知り咎めたのだが、却って斉襄公らの企みにより殺されてしまった! 悪事はめぐるもので、後に襄公はいとこに殺された! 以降斉国は大いに乱れ、姜小白、すなわち春秋五覇の一人、斉の桓公が登場する舞台を整えることとなるのである! なお桓公は襄公の弟である!

なおこの詩は斉の士大夫のひとりが歌ったものとされておる! かれは怒りに任せてこの詩を歌うと、何処へともなく消えていったという!




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%94#%E3%80%8A%E5%8D%97%E5%B1%B1%E3%80%8B

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