大車(引用2:貞淑なる女性/淫奔を批判)

大車だいしゃ



大車檻檻だいしゃかんかん 毳衣如菼ぜいいじょたん 

豈不爾思がいふじし 畏子不敢いしふかん

 大夫の車はカタコトと、

 そのお召し物は若葉のよう。

 あなたを思わぬではないのだが、

 あの方が怖くて、

 あえてはできませぬ。


大車啍啍だいしゃとんとん 毳衣如璊ぜいいじょもん 

豈不爾思がいふじし 畏子不奔いしふほん 

 大夫の車はコトコトと、

 そのお召し物の赤さが目に鮮やか。

 あなたを思わぬではないのだが、

 あの方が怖くて、

 あえてはできませぬ。


穀則異室こくそくいしつ 死則同穴しそくどうけつ 

謂予不信せいよふしん 有如皦日ゆうじょげきじつ 

 生まれは部屋を異とするも、

 死ぬときには同じ穴の中。

 私を信じ切れませぬか?

 では、朝日にかけて誓いましょう。




〇国風 王風 大車


婚礼にあたっては取り決められた一定の手続きが必要である。愛しきあなたと一緒になりたいのだが、その取り決めを守れぬようでは、あの大夫様のように立派な存在にはなれるまい。ゆえに、今は我慢してほしい。生まれも育ちも違う我々であっても、死ぬときには同じ墓穴に葬られることになるのだから。私を信じ、待ってほしい。ずいぶんと身持ち硬き女性であるな。




〇儒家センセー のたまわく


この詩では貞淑な女性の凛とした姿を描き出し、当時はびこっておった淫奔の気風を批判しておるのである! ここで冒頭に描かれている大夫とは刑務の執政官であり、貞淑にあらざるものを捕らえ、罰に処すのである!




■諸葛亮、劉備の皇后を思う。


三國志巻34 蜀志先主甘皇后伝

今皇思夫人宜有尊號,以慰寒泉之思,輒與恭等案諡法,宜曰昭烈皇后。『詩』曰:『谷則異室,死則同穴。』


劉備皇后の甘氏が死亡した時の諡は思夫人であったが、諸葛亮は頼恭らと協議したうえで、劉禅に生母へ「昭烈皇后」、即ち「昭烈帝の皇后ですよ」と明確にさせようとした。「生きている時はさておき、死後は同じ場所にあるべき」と唱えるのには、劉禅の皇帝としての権威をより高めんとする意図が見え隠れする。




■世説新語 賢媛29にて引用


郗嘉賓喪,婦兄弟欲迎妹還,終不肯歸。曰:「生縱不得與郗郎同室,死寧不同穴!」


郗超が死んだ時、その妻である周馬頭を、家族の者が引き取ろうとした。その時の周馬頭の断りの言葉がこのセリフである。「ここから先、あのお方と一緒にはおれないのだけれど、死んだ後に同じ穴に入れないのは嫌なのです」とのことであるが、……このころ周家は落ち目で、郗家は今をときめく名家であったことを思うと、なかなかにニヤニヤしてしまうな。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%9B%9B#%E3%80%8A%E5%A4%A7%E8%BB%8A%E3%80%8B

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