伯兮(引用1:出征した夫/戦争批判)

伯兮はくけい



伯兮朅兮はくけいけつけい 邦之桀兮ほうしけつけい

伯也執殳はくやしつしゅ 為王前驅いおうぜんく

 我が夫は偉大なお方。

 お国の英傑。

 夫は矛を取られ、

 王の先駆けとなられる。


自伯之東じはくしとう 首如飛蓬しゅじょひほう

豈無膏沐がいむこうよく 誰適為容してきいよう

 我が夫が東に出征してより、

 私の頭は乱れたヨモギ。

 髪なぞ簡単に整えられようが、

 誰のために整えるのだ。

  

其雨其雨きうきう 杲杲出日こうこうしゅつじつ

願言思伯がんげんしはく 甘心首疾かんしんしゅしつ

 雨よ降れ、雨よ降れと願えど、

 願いむなしく、煌々とした日差し。

 そうすれば夫も帰ってこれように。

 頭も痛くなってきた。

 

焉得諼草えんとくえんそう 言樹之背げんじゅしはい

願言思伯がんげんしはく 使我心痗しがしんばい

 ワスレグサにでも頼って、

 この憂悶を忘れ去りたいのに。

 夫の帰還を願い、

 我が心は千々に乱れるのだ。




〇国風 衛風 伯兮


勇ましく出征をしてゆかれた夫を応援したくも、戦死してしまう恐怖、隣におらぬさみしさの方が圧倒的に勝つ。そのように感ぜられる詩であるな。第一連だけがやけに勇ましいので、うっかり勘違いしてしまいそうにはなるのだが。




〇儒家センセー のたまわく


衛の宣公の時代に起こった戦役にて、多くの者が出征した! そのうちの何名かは遂に帰ってくることがなかった! 無体な戦役によって士大夫を駆り出す無体を批判するのである!




■世説新語 言語56に引用


簡文作撫軍時,嘗與桓宣武俱入朝,更相讓在前。宣武不得已而先之,因曰:「伯也執殳,為王前驅。」簡文曰:「所謂『無小無大,從公于邁』。」


しん簡文帝かんぶんてい司馬昱しばいくがいまだ将軍であったころ、同僚の桓温かんおんとともにときの皇帝に謁見した。この時お互いに先導を譲り合ったのだが、最終的に桓温が先に立つこととなった。この時桓温は「我が敬慕する司馬昱様の前駆となりましょう!」という思いで、この詩を引用している(ちなみに簡文帝の応答も詩経魯頌よりの引用である)。


その印象が強かったため誤解につながったのであるが、詩全体が勇壮な雰囲気になっているのかと思えば、まるでそんなこともなく。これはやはり鄭玄ていげんの女奴隷の応答と同じように「詩全体の含意を踏まえず、飽くまで句だけで拾う」ほうがよいのかな。簡文帝が引用しておる魯頌「泮水」はいわば英雄叙事詩であるし、下手に詩全体からの援用と考えてもろくなことにはならなさそうである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%89#%E3%80%8A%E4%BC%AF%E5%85%AE%E3%80%8B

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