新臺(不細工な夫への失望/衛宣公の糾弾)

新臺しんだい 引用13件

見合い 妻→夫 不細工 衛 乱政批判



新臺有泚しんだいゆうひ 河水瀰瀰かすいびび

燕婉之求えんえんしきゅう 籧篨不鮮きょじょふせん

 新しい祭壇が美しく設けられた。

 そのふもとには雄大なる黄河。

 イケメンの夫と出会えると思ったのに、

 やってきたのはとんでもない不細工。


新臺有洒しんだいゆうしゃ 河水浼浼かすいめんめん

燕婉之求えんえんしきゅう 籧篨不殄きょじょふしん

 新しい祭壇が美しく設けられた。

 そのふもとには滔々たる黄河。

 イケメンの夫と出会えると思ったのに、

 やってきたのは鳩胸の不細工。


魚網之設ぎょもうしせつ 鴻則離之こうそくりし

燕婉之求えんえんしきゅう 得此戚施とくひせきし

 魚とりの網を仕掛けたら、

 大きな雁が引っ掛かった。

 イケメンの夫と出会えると思ったのに、

 捕まったのはせむしの不細工。



〇国風 邶風 新臺

※ただしイケメンに限る。

世説新語 假譎12でも「不良債権」をどのような策を弄して「処理」するかが重要課題であるかのように語られておる。結婚に向かぬ者をへたに結婚させたところで不幸しか待っておらぬ気はするのだが、そういうわけにもゆかぬのよな……。この時代の結婚は親同士の協議がほぼすべてであるから、新妻が夫をこのように激烈になじっていることについては批判もしきれぬところがある。



〇儒家センセー のたまわく

「刺衛宣公也。納伋之妻,作新臺於河上而要之。國人惡之,而作是詩也。」

この詩も衛の宣公への批判の詩である! 宣公は自分の息子のために迎え入れた妃の美しさを見、自分の妻としてしまった! このような下劣な振る舞いがあってよいものかと衛国人がこの詩を詠んだのである!



〇崔浩先生、ツッコむ

つまり衛国人は自らの国の主を鳩胸だせむしだと言っていたわけであるな、なるほど! あほか、さすがに当時の観点で言えば捕まって殺されるわ!



■オメー写し間違えたろ

漢書28 地理 上

邶又曰「亦流于淇」「河水洋洋」(師古曰:「今邶詩無此句。」)

漢書地理志では詩経の句を引いて「この地はこう歌われている」と紹介するパートがある、……のだが、顔師古が注でツッコミを入れておるとおり、河水洋洋があるのは衛風碩人である。河水、で歌われるのは当詩の河水瀰瀰であり、どこかの筆者の段階でうっかりこのあたりの混同が混じってしまったものと思われる。それにつけても作者も後世に従事しておるが、この手の思い込みというやつは、本当に消しきれぬ。読み手は無邪気にツッコめば良いのであるが、当時のこの、一発書いたらそれで終了、という世界でのヒューマンエラー潰しは、想像するだに地獄であるな。



■豊かな湖

宋書67 謝霊運

瀰瀰平湖,泓泓澄淵。


この手の二字連続語句は基本的にあまり拾っても良くないとは思うのだが、さすがにこれは引用と言うべきであろう。宋書の編者沈約はいったいどれほど謝霊運のことを愛していたのか、「宋の歴史事績的に」まったく関係のない山居賦を、その注釈も込みで長々長々と垂れ流す。その一節である。いや確かに瀰瀰平湖,泓泓澄淵。という表現には水量豊かな湖、清らかなせせらぎのイメージを音的にも拾えそうな気はするのだが、いや、そういうのは文章に関する本でやりましょうね?



■くさかんむりとたけかんむり

基本的に蘧蒢はムシロの雅語である。なのだが、おそらく町中にてムシロに尻を乗せ座り込んでいる人物、的なイメージからの敷衍なのであろう、乞食の雅語としても機能し、更に辞書を引くと「阿諛追従の人」にまで解釈が拡大されたようである。しかし当詩でいきなり「ムシロに尻を乗せてそうな人」みたいな隠喩表現が決まっているのに頭を抱えざるを得ぬ。この詩の時点で既に広く流通する罵倒文句だったのであろうな。ムシロもいい迷惑である。それはいいのだがたけかんむりとくさかんむりの表記揺れをやめてくれ、地味に気付きづらい。


・史記2 夏 注

葦棺者,以葦為棺。謂蘧蒢而斂,非也。禹雖儉約,豈萬乘之主而臣子乃以蘧蒢裹尸乎?墨子言「桐棺三寸」,差近人情。

・漢書100.2 敍傳下

舅氏蘧蒢 ,幾陷大理。(師古曰:「蘧蒢,口柔,觀人顏色而為辭佞者也。」)


・晋書51 皇甫謐

氣絕之後,便即時服,幅巾故衣,以籧篨裹尸,麻約二頭,置尸牀上。

平生之物,皆無自隨,唯齎孝經一卷,示不忘孝道。籧篨之外,便以親土。

・晋書114 苻堅下

椎蘆作蘧蒢,不成文章,會天大雨,不得殺羊。


・魏書60 程駿

昔王孫裸葬,有感而然;士安籧篨,頗亦矯厲。

・魏書72 陽尼

蘧蒢戚施,邪媚是欽。

・魏書84 刁沖

及於末世,至蘧蒢裹尸,倮而葬者。

・魏書95 慕容廆

椎蘆作籧篨,不成文章;會天大雨,不得殺羊。

・魏書104 魏子建

死生大分,含氣所同,世有厚葬,吾平生不取,籧篨裸身,又非吾意。



■せむしのせきし

せむし男のことを戚施と呼び、後世では蘧蒢戚施で不具者を嘲る言葉として機能するそうである。まぁそう言う言葉が存在してしまうのは当時的背景からやむを得ぬにしても、作者はこの語を引いて魏書に行き当たったときに凍り付いた。そう、上掲「籧篨」に何やら似ている字が見えるではないか。嫌な予感がして調べてみたところ上掲のごとく、部首をうっかり書き間違えた句が雨あられと出て参ったわけである。え、もしかしてガチで調べるにはこの手の書き間違いもきっちり調査しないといけないですか……?


・晋書39 評

馮紞外騁戚施,內窮狙詐,斃攸安賈,交勖讎張,心滔楚費,過踰晉伍。

・魏書72 陽尼

蘧蒢戚施,邪媚是欽。



毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%8C#%E3%80%8A%E6%96%B0%E8%87%BA%E3%80%8B

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