静女(デートの風景/風俗紊乱の批判)

靜女せいじょ 引用20件

恋愛 待ち合わせ 衛 風紀の乱れ



靜女其姝せいじょきしゅ 俟我於城隅しがおじょうぐう

愛而不見あいじふけん 搔首踟躕そうしゅちちゅう

 しとやかなあの子は見目うるわしく、

 きっと僕を城壁の側で待っている。

 ああ、いとしい人、早く会いたい。

 なのに、いない。

 どうしたのかと首を掻き、

 まちぼうけ。


靜女其孌せいじょきれん 貽我彤管たいがとうかん

彤管有煒とうかんゆうい 說懌女美えつえきじょび

 しとやかなあの子が

 恋しくて仕方ない。

 彼女がくれた赤い笛。

 きらきらと輝かしいそれに、

 あなたの想いを感じ、

 嬉しく思うのだ。


自牧歸荑じぼくきてい 洵美且異しゅんびしょい

匪女之為美ひじょしいび 美人之貽びじんしたい

 野山からとってきてくれたツバナは

 実に美しく、かつ珍しい。

 あなたはいっとき僕を

 がっかりさせたのだけれど、

 こうして嬉しい贈り物をしてくれた。



〇国風 邶風 靜女

しとやかで美しい彼女がデートの待ち合わせにやってこなかった。どうしたものかと気もそぞろになりながら、送られた真っ赤な笛(詩句中では筒とのみ書かれているが、あえてそうとることにした)を見れば、彼女が自分に飽きたとは考えられない。そして後日、改めて会った彼女からはツバナのプレゼントがあった。それを見て、ああ、やはり彼女は自分を愛してくれているのだ。そう感動したという詩である。ところでこれが邶風に入っている、ということは……。



〇儒家センセー のたまわく

「刺時也。衛君無道,夫人無德。」

ふしだらな女を非難する詩である! 衛の君主に徳なく、そしてその妃にも徳はない! ゆえに国が乱れるのは必然! 必然なのである!



〇崔浩先生、爆笑のあとまがお

うむ、儒家センセーはこうでなくてはな! だが一方でこの詩は儒的な思想の成立以前にあったと思われる素朴な逢瀬の場面が、「婦女は妄りに外に出るべからず」でがんじがらめになった後世的視点からどう評価されるようになったか、を示す重要な史料であるようにも思われる。このような素朴な逢瀬が「みだらなもの」と認識される世界が、確かに存在したのである。



■とまどい、たたずまう

踟蹰は辞書によると踟跦、踟躕、踟躇とも書かれるらしい。あと、ラスト三件は躑躅が踟蹰を意味する、と後漢書注にあったため別途拾ったものである。まあ、こんな漢字をまともに覚える気にもなれぬな。現代日本においては「躊躇」の用法にも近いとされるようであるが、しかし詩の用法からするともう少し幅広くフォローをしているようにも感ぜられる。 基本的には雅語のたぐいであるが、ときどき張り切った史家たちが地の文にねじ込んできており「そこは張り切るところじゃないよね?」とも思わされずにおれぬ。


・後漢書119 輿服上 注

天理入魁,神不獨居,故驂駕陪乘,以道踟蹰。

・後漢書30.1 蘇竟

皇天所以眷顧踟蹰 ,憂漢子孫者也。

・後漢書49 仲長統

蹰躇畦苑,遊戲平林,濯清水,追涼風,釣游鯉,弋高鴻。

・後漢書74.1 袁紹 注

今是大鳥獸則失喪其羣匹,越月踰時焉,則必反巡過其故鄉,翔回焉,鳴號焉,蹢躅焉,踟蹰焉,然後乃能去之。

・後漢書84 董祀妻

馬為立踟躕,車為不轉轍。


・三國志19 曹植 注

欲還絕無蹊,擥轡止踟蹰。踟蹰亦何留,相思無終極。

・三國志21 呉質 注

及文帝崩,質思慕作詩曰:「愴愴懷殷憂,殷憂不可居。徙倚不能坐,出入步踟躕」


・晋書13 天文下

・宋書24 天文二

十月己亥,熒惑在東井,居五諸侯南,踟蹰留止,積三十日。

・宋書64 鄭鮮之

苟忠發自內,或懼法於外,復有踟蹰顧望之地邪!


・魏書50 慕容白曜

濟黃河知十二之虛說,臨齊境想一變之清風,踟躕周覽,依然何極。

・魏書98 蕭衍

運神器於顧眄,定寶命於踟躕,恢之以武功,振之以文德,宇內反可封之俗,員首識堯舜之心。


・後漢書13 隗囂

將軍操執款款,扶傾救危,南距公孫之兵,北禦羌胡之亂,是以馮異西征,得以數千百人躑躅三輔。

・三國志42 郤正 注

狐狸穴其中,游兒牧豎躑躅其足而歌其上曰:『孟嘗君之尊貴,亦猶若是乎!』」

・魏書36 李騫

眷疏傅以徘徊,望申公而躑躅。



■女性のあるべき姿として語られる中に。

女性が守るべき礼を受け容れ、守るべききまりにおとなしく従う。孝、友、睦、婣、任、恤の六つの行いに従い、ここで徳・言・容・功の四つの徳を明らかとする。風や霜のごとくきよらかな人品と、その評判が国々に伝わった。朱色の筆がもたらす教えは、清々しい人柄は食い違うことがない。

ここで「彤管」が現れるが、これは「女からの贈り物」が、即ち「良き教え」である、と語られている、となろうか。史書をもう少しひっくり返すと単に「古の良き教え」にのみ留まる用法も見受けられる。


・後漢書10 皇后紀上

史彤管 ,記功書過。


・晋書55 夏侯湛

盪典籍之華,談先王之言。入閶闔,躡丹墀,染彤管,吐洪煇,干當世之務,觸人主之威,有效矣。

・晋書62 劉琨

臣等祖考以來,世受殊遇,入侍翠幄,出簪彤管,弗克負荷

・晋書86 評

祚以卑孼,陰傾冢嗣,播有茨於彤管,擬宸居於黑山,

・晋書96 列女伝 史臣論 讃

從容陰禮,婉娩柔則。載循六行,爰昭四德。操潔風霜,譽流邦國。彤管貽訓,清芬靡忒。



毛詩正義

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