北門(憂鬱な宮勤め/暗君への怒り)
乱政批判 仕事 愚痴 やけくそ
北の門から退出するたび、
心に憂鬱がのしかかる。
身は痩せさらばえ、家は貧しい。
こんな窮状、誰が知るだろうか。
あぁもうクソが、
天、この野郎、何だこの状況は。
俺に何しろって言いやがる。
已焉哉 天實為之 謂之何哉
王から次々と押し付けられる仕事、
下から上がってくる陳情の数々。
次々と仕事が押し付けられてくる。
家に戻ってくれば、
妻が相も変わらず
我が家の窮状について謗ってくる。
あぁもうクソが、
天、この野郎、何だこの状況は。
俺に何しろって言いやがる。
我入自外
已焉哉 天實為之 謂之何哉
王からの仕事で圧迫され、
下からの陳情にも潰されて。
それで家でも責められるわけだ。
あぁもうクソが、
天、この野郎、何だこの状況は。
俺に何しろって言いやがる。
〇国風 邶風 北門
なんというか……生々しい、ただひたすらに生々しい、な! あらゆるものに板挟みとなり上げられる絶叫は、まぁ、現代の勤め人にも通じるものであろう。しかし「三千年前から勤め人はひどい目に遭ってきたんですよ!」なぞ言われたところで、何ら慰めにもならぬな!
〇儒家センセー のたまわく
刺仕不得志也,言衛之忠臣不得其志爾。
いくら懸命に仕えても志を得ることができぬことに怒る詩である! 衛の忠臣が、いくら身を粉にしても一向に国が良くならぬことを恨んだ、とも言われておる! 暗君のもとで懸命に働くものの怨嗟がこれでもかと詰まっておるのである!
■湯王を助けた尹伊のこと
晋書巻39 史臣評
有莘之媵,殊『北門』之情。
夏王朝末期、有莘氏の娘が湯王に嫁ぐ時、そのお付きの料理人が伊尹であった。その才能を見抜いた湯王によって参謀に抜擢され、牧野の戦いで桀を討ち果たすに至るわけであるが、そんな人物とて用いられずに苦しい思いをしていたことがあった、と語るのである。時系列がむちゃくちゃな気もせぬではないが、まあ気にすまい。
■世説新語 言語80に載る
李弘度常歎不被遇。殷揚州知其家貧,問:「君能屈志百里不?」李答曰:「北門之歎,久已上聞。窮猿奔林,豈暇擇木!」遂授剡縣。
李充と言う人物が、その才能に見合った官位を授けてもらえずにいたことを「北門の歎」と語っている。その後「ややつまらぬ職」として県令(県の面積がだいたい百里四方であるため百里と呼ばれた)の職位を上官より融通してもらっておるわけである。
■ああクソが
已焉哉。当詩にて「ああもうクソが」と語ったアレである。訳していてこれ以上ぴったりな宛て方もあるまいと自画自賛しておったのだが、史書的には相当な文才を負った文人がようやくちらっと漏らす程度だったようである。鄭玄に陶淵明って、そんなまさかまさか。
・後漢書35 鄭玄
菲飲食,薄衣服,節夫二者,尚令吾寡恨。若忽忘不識,亦已焉哉!
・宋書93 陶潜
爾之不才,亦已焉哉。
■天クソが何してけつかる
天實為之、謂之何哉で成句、後半はちょくちょく省略、と言った雰囲気である。だいたいの引用は天のクソ野郎にナメた真似をされた時にがるると噛みつく感じのようであるが、周魴のみ少し趣が違う。魏の曹休を釣り出そうと偽装の友誼を結ばんとしてのなかで「あなた様との出会いはまさしく天啓!」的ニュアンスでこの表現を用いておる。まぁ正直他の引用からすれば結構なケンカ売りではないか、とも思わずにおれぬ。こわいこわい。
・三國志10 賈詡 注
天實為之,豈人事哉?然則魏武之東下,非失算也。
・三國志19 曹植
今臣以一切之制,永無朝覲之望,至於注心皇極,結情紫闥,神明知之矣。然天實為之,謂之何哉!
・三國志60 周魴
魴以千載徼幸,得備州民,遠隔江川,敬恪未顯,瞻望雲景,天實為之。
・晋書63 邵続
釁鼓之刑,囚之恒分,但恨天實為之,謂之何哉!
・晋書72 郭璞
非但禍吾,卿亦不免矣。天實為之,將以誰咎!
・宋書68 劉義宣
如其遂溺姦說者,天實為之。臨書慨懣,不識次第。
・魏書2 拓跋珪 評
而屯厄有期,禍生非慮,將人事不足,豈天實為之。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%8C#%E3%80%8A%E5%8C%97%E9%96%80%E3%80%8B
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