簡兮(勇壮な踊り/人材が用いられぬ嘆き)

簡兮かんけい 引用19件

臣下 勇者 舞い 閑職の嘆き



簡兮簡兮かんけいかんけい 方將萬舞ほうしょうばんぶ

日之方中じつしほうちゅう 在前上處ざいぜんじょうしょ

 ゆったりと構えて、

 あまたの踊りの始まりに備える。

 いよいよ真昼に至る。

 そしてかれは最前列に立つ。


碩人俁俁せきじんごご 公庭萬舞こうていばんぶ

有力如虎ゆうりきじょこ 執轡如組しつひじょそ

 堂々たる振る舞いのお方が

 君主のお庭で舞を舞う。

 力強さは虎のようであり、

 馬上でのふるまいは

 編み物を編むかのように

 繊細でもあり。


左手執籥さしゅしつやく 右手秉翟ゆうしゅへいてき

赫如渥赭かくじょあくしょ 公言錫爵こうげんしゃくしゃく

 左手には笛を取り、

 右手にはキジの羽。

 そのお顔は赤くつややか。

 踊りを終えれば、

 君主様よりお褒めを賜るのだ。

 

山有榛さんゆうしん 隰有苓しつゆうれい

云誰之思うんししし 西方美人せいほうびじん

彼美人兮かびじんけい 西方之人兮せいほうしじんけい

 山にはハシバミが生え、

 沢にはアマグサが生える。

 あなたは誰を思うのか?

 西のかたのあの素晴らしき人か。

 あの素晴らしきお方は、

 はるか西のかたにおられる。




〇国風 邶風 簡兮

見事な舞を示すその壮者は、国にとりて得難き人材である。野山に有用な草木が生えるのと同じく、国の各所には得難き人材がいる。壮者は衛国から見て西のかた、すなわち洛陽におる周王のことを思うのである。そして彼は国のために働くことを誓う。




〇儒家センセー のたまわく

ここで見事な舞を踊る壮者は、本来であれば高官として大きな働きをすべきものである! それがただ舞を舞うことしかできぬ! 衰えたる世の悲しき出来事であると言えよう! 壮者は「あぁ、おれも古の聖王に仕えていれば、きっと今頃は」と嘆じているのである!




〇崔浩先生 迷う

この詩を素直に読めば、「西の美き人」は当世の王を示しているようにも思えてならぬのだが、邶風がこれまで衰えた国、乱れた国を嘆く風潮に染まっていたことを考えれば、儒者センセーのごとく「衰えた国を嘆く」方向で解釈するのが妥当なのであろう。とは言えその部分を排除し、壮者殿の舞の勇壮なることのみを抽出し、感嘆する。それだけを楽しむ、としてもよい気はしておる。




■盛大なる踊り

萬舞の語は魯頌閟宮、商頌那にも見える。萬舞、で盛大なる踊りを越え、やんごとなきお方、ひいては神霊に捧げる群舞、と言うニュアンスを抱いているようである。その根源となっておる気配が、趙簡子が病を得、昏睡したときに夢の中で天帝の元に留学し、盛大な踊りを見せてもらえたこと、に求められようか。基本的に皇帝まわりの歌や発言に用いられておるのが見えるし、摯虞の著述も天命を問うものである。


・史記43 趙簡子

・史記105 扁鵲

 我之帝所甚樂,與百神游於鈞天,廣樂九奏萬舞,不類三代之樂,其聲動人心。

・後漢書2 明帝

 八佾具脩,萬舞於庭。

・晋書22 楽上

・宋書20 楽二

 笙磬詠德,萬舞象功。

・晋書22 楽上

・宋書20 楽二

 金石在懸,萬舞在庭。

・晋書51 摯虞

 陳鈞天之廣樂兮,展萬舞之至歡。




■公の広場

こちらもやはり魯頌閟宮、商頌那に見える。「偉大なるを称えるための踊り」には、それはもう広い庭園がなければ実施し得ぬものであるしな。とは申せど、ここで用いられている語には「踊りを披露する場」というよりはお白州的なニュアンスが強く表れてもいる。その契機は袁宏『三國名臣頌』なのやも知れぬ。こちらに載る句は諸葛瑾を讃える句の一節なのだが、ここの公廷には踊り手の展開する場、の意味がない。袁宏がオリジナルとも思えぬし、さらに掘り込めるのであろうがな。


・晋書21 礼下

 謂公庭如臣,私覿則嚴父為允。

・晋書86 張駿

・魏書99 張駿

 駿字公庭,幼而奇偉

・晋書92 袁宏

 將命公庭,退忘私位。

・魏書19.1 元脩義

 人問居曰:「白日公庭,安得有賊?」

・魏書41 源懐

 明日公庭,始為使人撿鎮將罪狀之處。

・魏書53 李孝伯

 公庭論議,常引綱紀,或有言事者,孝伯恣其所陳,假有是非,終不抑折。

・魏書71 夏侯夬

 夬妻,裴植女也,與道遷諸妾不穆,訟䦧徹于公庭。




■がおー、だよ!

あまりにまんますぎて却って援用されぬ感じである、と言うか「あまりにもストレートすぎて詩経の引用だと気付かれない」シーンが多かったのではないか、と言う気もせぬではない。がおー。


・左伝 襄公10-4

 孟獻子曰.詩所謂有力如虎者也.主人縣布.堇父登之.及堞而絕之.隊則又縣之.

・魏書27 穆崇

 世祖歎曰:「詩所謂『有力如虎』,顗乃過之。」



■この楽器よーわからん

籥とは竹笛の一種なのだが、誰がどのような意図をもって生み出した楽器なのかよくわからぬそうである。宋書楽志の楽器解説編で紹介を受けておるのだが、「よくわかんないけど凱容とか宣烈みたいな曲目で用いられるよ!」とか、「簡兮で言われてる楽器がこれなんじゃないかな! しらんけど」と紹介を受けている。わからないものはわからないと語る。重要なことであるな。


・宋書19 楽一

 籥,不知誰所造。周禮有籥師,掌教國子秋冬吹籥。今凱容、宣烈舞所執羽籥是也。蓋詩所云「左手執籥,右手秉翟」者也。





毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%8C#%E3%80%8A%E7%B0%A1%E5%85%AE%E3%80%8B

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る