綠衣(側女に逆転される正妻/国乱の兆し)

綠衣りょくい 引用10件

結婚 妻と妾 下剋上 衛荘公



綠兮衣兮りょくけいいけい 綠衣黃裏りょくいこうり

心之憂矣しんしゆういー 曷維其已かついきい

 緑の衣、裏地は黄色。

 心の憂いはいつにぞ止む。


綠兮衣兮りょくけいいけい 綠衣黃裳りょくいこうしょう

心之憂矣しんしゆういー 曷維其亡かついきぼう

 緑の衣と、黄色のボトムス。

 心の憂いはいつにぞ忘らる。 


綠兮絲兮りょくけいしけい 女所治兮にょしょちけい

我思古人がしこじん 俾無訧兮ひむゆうけい

 緑の糸はそなたが染めたもの。

 古の賢人のごとく、

 咎なく振舞いたいものだが。


絺兮綌兮ちけいこくけい 淒其以風せいきじふう

我思古人がしこじん 實獲我心じつかくがしん

 薄着、薄衣、寒空の前。

 古の人も苦しんだ事であろうか。

 そのことのみが、

 実に我が心を慰めるのだ。




〇国風 邶風 綠衣

高貴な者は黄色の服を着る。緑はそれよりも下る位階の色である。にもかかわらず、緑が表に、あるいは上にくる。いわば下克上がなされていることを示す歌であるという――いやそんなん注を読まねば分かりようがあるまい。中でもこの詩は正妻が妾に出し抜かれ、そのことを憂えている歌であるという。妾の下克上は古よりありがちな事態であった。これらを過去の賢人たちは何とかしのいできた。自分もそれに倣い、何とかこの事態を解消したい。そのように願う歌であるとのことである。




〇儒家センセー のたまわく

「衛莊姜傷己也。妾上僭,夫人失位而作是詩也。」

この詩は衛の荘公の夫人であった斉出身の姫、姜氏がいやしき出自の側女にいいようにやられている状況を悔やんで詠んだものである! なおこの側女が生んだ子こそが衛の国をズタボロにした! 妻のヒエラルキーの乱れはそのまま国の乱れにも直結するわけである!




■緑の衣

上記の通り妾の衣、となるわけであり、班氏の言葉はまさにそこに倣うのであるが、揚雄「反離騒」においては「屈原ほどの偉大なるお方が何故死なねばならなかったのか」を語る中で用いられておる(※離騒は屈原が世に用いられぬ事をはかなんだとされる詩である)。直接の接続はないのであるが、世の不条理を嘆く、でやや繋がらぬ気もせぬではない。


・漢書87.1 揚雄上

 衿芰茄之綠衣兮,被夫容之朱裳,芳酷烈而莫聞兮,不如襞而幽之離房。

・漢書97.2 孝成班婕妤

 勉虞精兮極樂,與福祿兮無期。綠衣兮白華,自古兮有之。




■后絡みはむちゃくちゃ

後漢書10.1 后妃紀序

爰逮戰國,風憲逾薄,適情任欲,顛倒衣裳,以至破國亡身,不可勝數。


后妃伝ではなく「紀」なのにひとしきり笑わされたのだが、それはさておき。后妃のあるべき道を説きたいのだが、周から時が下り、戦国に及ぶにいたり、衣=上着と裳=スカートの上下関係がひっくり返るだなどという事態が常態化しておった、と語るのである。いやそんなん人間集団にあってはいやでも強いものがのし上がろうにな。




■最近葬礼テキトーだよね

晋書20 礼中

思古君子官賢人,置之列位也。此『國風』所以思古,『小雅』所以悲歎。


晋孝武帝の末期、「蛍の光」の故事で有名な車胤が孝武帝に対して葬礼の重要さを解く。昔はしっかりやられていたのに最近はおざなりだ、というのである。いや、論語の昔から「昔は……」と言われておるので、おそらくは気のせいであるがな? ともあれそれを当詩、および「小雅」で嘆くとされておるのだが、「思古」句が見えるのは当詩のみであり、あとはすべて小雅の以下の詩、楚茨、信南山、甫田、瞻彼洛矣、鴛鴦、魚藻、采菽、瓠葉における詩序である。更に「悲嘆」句は詩序、本文、どちらにも見えぬ。まぁ、「そういう概念で歌われている」ということなのであろうがな。




■クソどもがのさばってキツい

魏書72 陽固

好之有年,寵之有日。我思古人,心焉若疾。


陽固は宣武帝の時代に仕えたスーパー諫言マン。宮中にクソどもがのさばる様に怒り「刺讒疾嬖幸詩」をものしておる。……激烈というか、ストレートにもほどがある題であるな。ここで言う「之」には様々な人物が挙がるが、ひとまず趙高(始皇帝死後朝政を壟断した宦官)のみをここでは挙げておこう。クソが寵愛されて時久しく、上代の聖なる宮中との比較に心がキリキリ痛む、と語るわけである。





■状況には適切な対応がございます

漢書64.2 王褒

故服絺綌之涼者,不苦盛暑之鬱燠;襲貂狐之煗者,不憂至寒之悽愴。


王褒は「聖主得賢臣頌」、皇帝が賢臣を得て国を繁栄させる詩を書いた。その中の一節である。「暑いときには絺綌のような涼しいものを、寒いときにはテンやキツネの毛皮を着るでしょう、状況に応じて対応を変えるとは、煎じ詰めればそんなものです」と語るわけである。




■魏明帝陛下のお妃さまが悲惨。

三國志5 明悼毛皇后 注

魏自武王,暨於烈祖,​​三后之升,起自幽賤,本既卑矣,何以長世?詩云:「絺兮绤兮,淒其以風。」其此之謂乎!


毛氏は不品行を明帝に嫌われ、死を賜っている。そんな毛氏の振る舞いに対する評である。本来お妃さまは高貴な方でなければならないのに、曹操、曹丕、曹叡と、みな賤しい出自のものを皇后に頂いた。これでどうして魏の世が長引くのだ? 「薄着で寒い風の前に出るようなもの」ではないか! というわけである。なおこの評は東晋の孫盛という人物のもの。晋サイコー魏が滅んだのは当然論者である。うーんポジショントーク。




■実に心に適う

「昔のひとも私のように苦しんでいたのだろう」という思いとはややかけ離れてもおるのだが、溜飲を下げる、的に適用範囲を広げることは叶うのやもしれぬな。それにしても孫権伝に出てくる鄭泉がすごい。「酒屋の側に埋めてくれ、そしたら数百年後に土くれとなった俺の身体は酒壺になる。それってサイコーじゃないか」とか言い出しておる。ガンギマッテおるな……。


・三國志47 孫権

 必葬我陶家之側,庶百歲之後化而成土,幸見取為酒壺,實獲我心矣。

・晋書92 王沈

 人薄位尊,積罰難任,三郤尸晉,宋華咎深,投扃正幅,實獲我心。

・魏書84 劉献之

 孔子曰:『我則異於是,無可無不可。』誠哉斯言,實獲我心。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%BA%8C#%E3%80%8A%E7%B6%A0%E8%A1%A3%E3%80%8B

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