騶虞(勢子の手際/文王の徳治)
狩猟 王の手腕 国の繁栄
あのわさわさ生い茂る葦に
ひとたび矢を撃てば、
五頭のメス野ブタを射止められる。
おお、見事なるは勢子の仕事。
于嗟乎 騶虞
あのわさわさ生い茂るヨモギに
ひとたび矢を撃てば、
五頭のオス野ブタを射止められる。
おお、見事なるは勢子の仕事。
〇国風 召南 騶虞
諸侯が多くの部下を連れ、狩りに出る。ここで諸侯の矢は見事に野ブタを何頭も仕留めるわけであるが、その結果は臣下たちが野ブタを射止めやすい位置に追いやったためである。あるいは騶虞を猟犬と見る向きもあるが、いずれにせよ主の偉大な仕事を部下たちが支えていることを讃えた歌として見ればよかろう。
〇儒家センセー のたまわく
「人倫既正。朝廷既治。天下純被文王之化。則庶類蕃殖。蒐田以時。仁如騶虞。則王道成也。」
これは文王の統治により徳化が行き届いておることを示す歌である! 騶虞とはいわゆる霊獣であり、王の政の秀抜なるを祝うとされる! それにしても狩り取るけだものを五頭で収めるとは、あたら殺し過ぎぬ、なんという徳であろうか!
以上周南召南の二章における詩を「正風」と呼び、良き世の中の素晴らしさが歌われた! 次章「邶風」以降は、乱れた国のつらさ、などを語る「変風」となる!
■瑞獣,騶虞
瑞祥であるから、もう皇帝の治世を讃えるとき、また皇帝に良き政をして欲しいと諫めるときに当然のように出て参る。大人気である。
・史記24 楽書
散軍而郊射,左射貍首,右射騶虞 ,而貫革之射息也
・史記117 司馬相如
・漢書57 司馬相如
騖乎仁義之塗,覽觀春秋之林,射貍首,兼騶虞 ,弋玄鶴,
囿騶虞之珍羣,徼麋鹿之怪獸,
・漢書28 地理
西河郡,武帝元朔四年置。戶十三萬六千三百九十,口六十九萬八千八百三十六。縣三十六:富昌,騶虞,……
・後漢書40.2 班固下
歷騶虞 ,覽四驖,嘉車攻,采吉日,禮官正儀,乘輿乃出。
・後漢書60.1 馬融
詩詠圃草,樂奏騶虞 。
・晋書22 楽上
・宋書19 楽一
杜夔傳舊雅樂四曲,一曰鹿鳴,二曰騶虞 ,三曰伐檀,四曰文王,皆古聲辭。
・宋書22 楽四
山鼎見奇,醴液涵祉。鵷雛燿儀,騶虞游趾。
・魏書68 高聡
臣等伏惟陛下聖武自天,神藝夙茂,巧會騶虞之節,妙盡矍圃之儀。
■荊州で、後世人は思う
三國志35 諸葛亮 注
谷風發而騶虞嘯,雲雷升而潛鱗驤。
諸葛亮の時代から下ること約百年、諸葛亮が劉備に会ったとされる故宅を見た人が書き残した言葉である。谷間から騶虞の鳴き声が聞こえ、雷雲の向こうに龍のうろこがのぞき見える。乱世に一人の麒麟児が現れた予兆であったのだ、そう後世人は語っている。彼の生きている時代は三國志がへそで茶を沸かす更なる大戦乱時代。いま孔明に現れてほしい、そう言った思いが言わせたのであろうか。
■騶虞幡
・晋書10 安帝
丁巳,遣兼侍中、齊王柔之以騶虞幡宣告荊、江二州。
・晋書36 張華
今可遣騶虞幡使外軍解嚴,理必風靡。
・晋書59 司馬瑋
會天明,帝用張華計,遣殿中將軍王宮齎騶虞幡麾眾曰:「楚王矯詔。」眾皆釋杖而走。
・晋書59 司馬倫
傳詔以騶虞幡敕將士解兵。
・晋書59 司馬冏
冏令黃門令王湖悉盜騶虞幡,唱云:「長沙王矯詔。」
會稽王道子將討桓玄,詔柔之兼侍中,以騶虞幡宣告江、荊二州,至姑孰,為玄前鋒所害。
・晋書59 司馬乂
會騶虞幡出,乂投弓流涕曰:「楚王被詔,是以從之。」
・晋書64 司馬允
遣麾騶虞幡以解鬭。
・晋書70 甘卓
時王師敗績,敦求臺騶虞幡駐卓。
・晋書98 桓温
殷浩慮為溫所廢,將謀避之,又欲以騶虞幡住溫軍,內外噂𠴲,人情震駭。
この旗は、要は晋のシンボルフラッグである。「騶虞に祝福された国」という形であろうか。なお別箇所では「白虎幡」という言葉も出てくる。どうも同じものを指す気がしてならぬ。ちなみに晋は五徳で言うと金徳に相当、対応する守護聖獣は白虎である。更に余談をすると晋を継承した劉宋はそのまま白虎幡をシンボルフラッグとして用いている。いやお前さんら水徳の国なんだから玄武幡にしろや。
■晋に幸せなことがあるよ!
晋書7 成帝
八年五月,麒麟、騶虞見于遼東。乙未,車騎將軍、遼東公慕容廆卒,子皝嗣位。
成帝が即位して八年後、麒麟や騶虞が北部地方に現れた。すると直後にそのエリアで勢力を伸ばしていた鮮卑の族長慕容廆が死んだ。なるほど吉兆! なおあとを継いだ慕容皝によって晋は盛大に圧力を被ることとなる。吉兆……?
■もう節約しなくていいんだよ!
晋書9 簡文帝
二年三月乙卯,詔曰:「……然退食在朝,而祿不代耕,非經通之制。今資儲漸豐,可籌量增俸。」騶虞見豫章。
羔羊で引用した詔勅のその後に書かれていることである。みんな、これ以上過度の倹約しなくていいんだよ! と簡文陛下が仰った直後、ひょっこりと騶虞が豫章に現れたという。まるで陛下のお言葉を後押しするかのようである。
■瑞祥(要検討)
・晋書10 安帝
・宋書28 符瑞中
冬十月,新野言騶虞見。丙子,大赦。壬午,仲堪等盟于尋陽,推桓玄爲盟主。
新野郡にて、騶虞が目撃された。いいことであるな! ただしそこは大絶賛殷仲堪及び桓玄、即ち中央に対して一時ケンカを売ってきた連中のナワバリである。なお桓玄はのちに晋を乗っ取り、簒奪をなしているのだが、その直前には数多の瑞祥を捏造、報告している。何と言うか、……一度受理してしまった瑞祥はもはや取り下げがきかぬのだな。
■やった天下統一ッ! HAPPY END!!
宋書16 禮三
若夫玄石素文,底號前載,象以姓表,言以事告,河圖、洛書之徵,不是過也。加以騶虞麟趾,眾瑞並臻。
西晋が天下統一をなしとげた時、臣下たちがが「陛下、おめでとうございます! 黄帝も、禹王も、周文王もここまでの偉大な功績は挙げられませんでした! またここまで偉大なる業績は『河圖』『洛書』と言った予言書ですら見極め切れませんでした! さらに今、騶虞や麟趾と言った瑞祥も現れております! すなわち戦乱の世は終わりました! 陛下バンザーイ!」的に語っておる。立てるな、フラグを。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E9%A8%B6%E8%99%9E%E3%80%8B
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