野有死麕(野辺の出会い/治安維持を図る)
女→男 誘い受け 恋愛 淫風
野には猟にて倒れたシカの肉。
白いかやで包んで贈り物に。
春を思う女に、
よき青年がやってくる。
林にはクヌギの木があり、
野には死んだシカがある。
その肉を白いかやで包む。
ああ、あの宝石のように
美しい女性を思う。
あわてなさるな、しゃんとなさい。
うかつにお近寄りなさるな、
犬に吠え掛かられますよ。
〇国風 召南 野有死麕
まもなく婚姻を迎える青年は狩をして鹿を仕留める。良い鹿が捕れた、これをきれいな衣でくるみ、未来の嫁への手土産としよう。彼女も、つがいになる日を今か今かと待ち望んでいるのだ――そう気を逸らせる婿候補に対し、嫁候補は言い返す。あなたのお気持ちは嬉しいのです、しかし婚儀の礼にはしっかり則らないと。ほら、慌てるあなたを、家の犬まで叱りつけていますよ? まぁ、男はな。したいよな、オセッセセ。女としてはそこはどうでもいい(むしろ嫌)であろうが。
〇儒者センセー のたまわく
「惡無禮也。天下大亂,強暴相陵,遂成淫風。被文王之化,雖當亂世,猶惡無禮也。」
文王の徳政下とはいえ、無法なものは無法である! ここでも女の振るまいが実に淫らで、けしからぬ! 風俗を損ねる者たちは排除してゆかねばなるまい!
■結婚に適したタイミングだと言うに
後漢書59 張衡
歌曰:天地烟熅,百卉含蘤。鳴鶴交頸,雎鳩相和。處子懷春,精魂回移。如何淑明,忘我實多。
張衡がものした「思玄賦」の一節である。天地が和らぎ、鶴が首を交え、ミサゴが連れそう。このようなタイミングでは「私も春を思わないわけには行かぬ」。心落ち着かぬも、しかし何故あなたは私を捨て置くのか。そう歌うわけであるが、その歌が出てくるのは、張衡が「絶世の美人でも私の経世済民の志を揺るがせることはできない、そう、例えそのことを彼女らが悲しみ、その思いを歌に託そうとも!」であり、何と言うか、うん、頑張って煩悩を押し殺してるんだね、と微笑ましく思える。いや、普通にエロいですよあなたが妄想の中で受信したその歌……?
■詩の暗誦は外交
左伝 昭公1
趙孟。叔孫豹。曹大夫。入于鄭。鄭伯兼享之。子皮戒趙孟。禮終。趙孟賦瓠葉。子皮遂戒穆叔。且告之。穆叔曰。趙孟欲一獻。子其從之。子皮曰。敢乎。穆叔曰。夫人之所欲也。又何不敢。及享。具五獻之籩豆於幕下。趙孟辭。私於子產曰。武請於冢宰矣。乃用一獻。趙孟為客。禮終乃宴。穆叔賦鵲巢。趙孟曰。武不堪也。又賦采蘩。曰。小國為蘩。大國省穡而用之。其何實非命。子皮賦野有死麕之卒章。趙孟賦常棣。且曰吾兄弟比以安。尨也可使無吠。穆叔。子皮。及曹大夫。興拜。
長いが許されよ。楚でひどい目に遭った人たちが楚から脱出後、バカスカ詩経の歌を歌って含意を暗に示す気違った真似を繰り広げておる。やめて頂きたいものだ(よだれ)。ともあれこの内容を追ってみよう。楚から脱出して後、鄭に逗留することになった趙孟、叔孫豹、曹の大夫の三名。主賓は趙孟であるが、その趙孟が初手を取り、歌う。
「瓠葉」(宴は質素でお願い!)
願いが聞き入れられ質素になった宴では、叔孫豹が口火を切る。
「鵲巢」(助けてくれてサンキュー!)
「采蘩」(あんたのお願い聞くぜ!)
そこにギャラリーの子皮が歌う。
「野有死麕」(楚に好き勝手させるな!)
最後に趙孟が歌う。
「常棣」(仲良くして楚を防ごうぜ!)
お、おう……?
卒章と言うよりは、どうやら「無使尨也吠」のことであるらしい。これ以上「楚という犬」にあたら吠えさせるな、と言ったのだそうである。な、なるほど……?
■吉士、良き臣下
良き臣下、的な意味合いであるが、そこより一歩踏み込み、「彼らが力を尽くして働けば天よりの祝福は強化されよう」的ニュアンスをも帯びてこよう。漢書の段階では「国が苦難に陥っているのは朝廷で吉士が大切にされていないからだ!」とされており、だいぶつらい。何せ元帝の代であるからな。斜陽のスタートが切られてだいぶ久しいぞ。
・漢書9 元帝
咎在朕之不明,亡以知賢也。是故壬人在位,而吉士雍蔽。
・漢書100.1 敍傳
福不盈眦,旤溢於世,凶人且以自悔,況吉士而是賴虖!
・三國志22 陳羣
吉士賢人,當盛衰,處安危,秉道信命,非徙其家以寧,鄉邑從其風化,無恐懼之心。
・三國志39 馬良
其人吉士,荊楚之令,鮮於造次之華,而有克終之美,願降心存納,以慰將命。
・魏書59 蕭寶夤
吉士盈朝,薪槱載煥矣。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E9%87%8E%E6%9C%89%E6%AD%BB%E9%BA%95%E3%80%8B
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