江有汜(好きな子が嫁に/側女の有能さを思う)

江有汜こうゆうし 引用9件

男→女 失恋 未練 側女 妃の後悔



江有汜こうゆうし

之子歸しいしき 不我以ふがじ

不我以ふがじ 其後也悔きごやかい

 大河に支流あり。

 あの子は嫁に行くが、

 私を置いていこうとしている。 

 そんなことをして、

 あとで後悔しても知らないよ。


江有渚こうゆうしょ

之子歸しいしき 不我與ふがよ

不我與ふがよ 其後也處きごやしょ

 大河に渚あり。

 あの子は嫁に行くが、

 私は一緒ではない。

 とはいっても、きっと後で

 一緒になるんでしょうけど。


江有沱こうゆうだ

之子歸しいしき 不我過ふがか

不我過ふがか 其嘯也歌きしょうやか

 大河に分流あり。

 あの子は嫁に行くが、

 私のもとには立ち寄ってくれない。

 とはいっても、のちのちには

 一緒に歌うことになるのでしょう。 




〇国風 召南 江有汜

異説がいろいろと飛ぶ詩である。しかしここではやはり、もっとも情けない方向で解釈しておきたいものだな。すなわち「好きな子が嫁に行ってしまい、置いてけぼりを食らった男」である。未練たらたらであるな、情けないな。たまらぬな。




〇儒家センセー のたまわく

「美媵也。勤而無怨。嫡能悔過也。文王之時。江沱之閒。有嫡不以其媵備數。媵遇勞而無怨。嫡亦自悔也。」

妃が側女に適切な才覚を有したもの(媵)を讃える歌である! 輿入り前の妃のためにかいがいしく働いていた彼女は、しかし異国に向かう妃とは共にはいなかった! 彼女が隣におらぬ事で、否応なしに妃は彼女の有能さを思い知り、この詩にて彼女の思いを想像し、歌ったのである!




〇後日の人、解釈す

「子」ってこの当時立派な士大夫のこと指すじゃん? ってこたこれ、夫に捨てられた妻がうたった詩なんじゃね? ヒュー、いじましいー!




■うちのご先祖すげー

漢書100.1 敍傳上

黎淳耀于高辛兮,羋彊大於南汜;


漢書を編んだ班固は、楚の王族に連なる。なので自らの出生を歌う中で五帝嚳に仕えた楚の始祖「黎」と、そこから連なる「羋」姓の人々が汜水の南で活躍したと歌い上げるのである。




■私とともにあらず

やや一般句にも近い気はせぬでもないのだが、ここはあえて当詩よりの引用と言い切っておこうと思う。と言うのも晋書での用例が面白すぎたのである。明らかに嵆康が幽憤詩でものした表現に憧れて、フォロワー達が己の「時にない」さまに嘆く折に用いておる。そして宋書以降、この用法は現れぬ。THE☆流行り廃り、であるな。


・左伝 昭公12

 今鄭人貪賴其田。而不我與我。若求之。其與我乎。

・論語 陽貨1

 日月逝矣。歲不我與。

・後漢書64 趙岐

 大丈夫生世,遯無箕山之操,仕無伊、呂之勳,天不我與,復何言哉!


・晋書49 嵆康

 對答鄙訊,縶此幽阻,實恥訟寃,時不我與。

・晋書51 束晳

 歲不我與,時若奔駟,有來無反,難得易失。

・晋書62 劉琨

 時哉不我與,去矣如雲浮。

・晋書70 応詹

 豈悟時不我與,長即幽冥,永言莫從,能不慨悵!

・晋書92 趙至

 時不我與,垂翼遠逝,鋒距靡加,六翮摧屈,自非知命,孰能不憤悒者哉!




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E6%B1%9F%E6%9C%89%E6%B1%9C%E3%80%8B

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