行露(礼なき婚儀をはねのける/道義を貫く)
裁判 反抗 強気 貞操 召公のお裁き
ゆきゆく道のり、露に湿る。
夜にあなたに会いにゆきたいが、
衣が露を含むのが
どうにもいただけない。
雀に角がないと誰が言ったのか?
私の家に穴をあけるではないか。
お前の家に礼がないと誰が言ったのか?
私を脅して裁判に
かけようとするではないか。
私を裁判にかけるからと言って、
誰がお前に従おうか。
誰謂女無家
鼠に牙がないと誰が言ったのか?
家の壁に穴をあけるではないか。
お前の家に礼がないと誰が言ったのか?
私のことを訴えようだなどと
言い出しているではないか。
私を訴えたところで、
お前に従う気は毛頭ないのだ。
〇国風 召南 行露
異説がさまざまに入り乱れておる詩である。が、ここでは婚姻前の逢瀬を迫ってくる夫候補の要求を「夜露で着物が重くなるのがいただけない」と突っぱねていたら訴訟され、それにブチ切れた妻候補が思いっきり啖呵を切っているように解釈したく思う。こちらのことを雀やネズミのごとく扱ってくれるのはかまやしねえ、だがそういった小動物でもテメエの喉笛くらいは噛みちぎれんだからな、舐めんじゃねえぞ、というわけである。
〇儒家センセー のたまわく
「召伯聽訟也。衰亂之俗微,貞信之教興,彊暴之男不能侵陵貞女也。」
これは召公が臨んだ訴訟の一幕である! 貞淑なる女性に狼藉を働かんとする男を突っぱねるさまを召公が支持し、良き女が悪しき男に汚されぬ風を生んだのである! こうして乱れかけた風紀は再び引き締められたのである!
〇ほかの儒家センセー のたまわく
いやさすがに召公の治世で風紀紊乱が起こったとは思えないし、もうちょっと時代が下ってからのお話なんじゃない……?
〇さらにほかの儒家センセー のたまわく
つーかこれ殷の末ころのお話なんじゃね? 召南だからって召公の影にとらわれ過ぎじゃ?
〇崔浩先生、思わずツッコむ
いや、そもそもにして君主が英明だから下々まで立派とはまたずいぶんなお花畑ではないか……?
■隋はアホ
左伝 僖公20-10
善敗由己,而由人乎哉?『詩』曰:『豈不夙夜,謂行多露。』
楚の属国であった隋が離反し、楚に敵対する諸国側についた。が、一瞬にしてボコされた。これに対して孔子があきれてコメントしておる。己の力量をきちんと見極めよ、見極めておれば「夜道を行くのが危ういなどわかりきったことであったと気付いたであろうに」、とのことである。
■晋の人事
左伝 襄公7-10
詩曰.豈不夙夜.謂行多露.又曰.弗躬弗親.庶民弗信.無忌不才.讓其可乎.請立起也.
晋の属侯のひとり、韓献子が引退を申し出る。そこで長子の韓無忌を後継に立てようとしたが、韓無忌は病身を理由に固辞。その代わり、弟の韓起を推挙する。「我が身は夜露=諸侯の職務に耐えぬ」と当詩で述べた上、「職務を為さぬものを民は信用すまい」と小雅節南山を引いて答えたのである。
■いやこれわざとだろ
晋書79 謝玄
餘眾棄甲宵遁,聞風聲鶴唳,皆以為王師已至,草行露宿,重以飢凍,死者十七八。
シーンは淝水の戦い直後。謝玄の軍によってズタボロにされた前秦軍らは慌てふためいて逃げておるのだが、そのときのワンシーンとして「草に行き露して宿す」と語るわけであるが、明らかに当詩の「豈不夙夜 謂行多露」を引っかけた表現となっておる。こういう表現は詩経全詩をきっちり脳内にインストールせねば拾い上げきれぬのがキツいところであるな……いくらでもありそうではあるのだが。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E8%A1%8C%E9%9C%B2%E3%80%8B
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