召南(しょうなん)
鵲巣(嫁入り歌/諸侯の妻の徳)
婚姻 家庭繁栄 婦人の徳
カササギの巣にハトが住む。
嫁ぎ行く姫を百台の車がお出迎え。
カササギの巣をハトが保つ。
嫁ぎ行く姫を百台の車でお見送り。
カササギの巣にハトが親族を連れる。
嫁ぎ行く姫は立派に婚礼を済ませた。
○国風 召南 鵲巣
カササギは時間をかけて立派な巣を作るが、ハトは自ら巣を作ることはない。この共生関係の発展を嫁入りから家庭の構築に掛けた詩である。最終的に家庭の繁栄が願われていることからわかるように、テーマは周南冒頭の関雎と非常に近しい。ともなれば、儒家センセーがどう解釈されるかは自明であろう。
○儒家センセー のたまわく
「夫人之德也。國君積行累功。以致爵位。夫人起家而居有之。德如鳲鳩。乃可以配焉。」
召南の召は、周の建立を大いに助けた召公・姫奭が封爵を受けた地である! 魏晋期でいうところの弘農、雑に言えば洛陽と長安の中間地点である! つまり首都洛陽直近の地方都市、となろう! ゆえにこの詩においては諸侯の婦人たちが妻としての徳を立派に果たさんことが望まれておる!
■詩の暗誦は外交
左伝 昭公1
趙孟。叔孫豹。曹大夫。入于鄭。鄭伯兼享之。子皮戒趙孟。禮終。趙孟賦瓠葉。子皮遂戒穆叔。且告之。穆叔曰。趙孟欲一獻。子其從之。子皮曰。敢乎。穆叔曰。夫人之所欲也。又何不敢。及享。具五獻之籩豆於幕下。趙孟辭。私於子產曰。武請於冢宰矣。乃用一獻。趙孟為客。禮終乃宴。穆叔賦鵲巢。趙孟曰。武不堪也。又賦采蘩。曰。小國為蘩。大國省穡而用之。其何實非命。子皮賦野有死麕之卒章。趙孟賦常棣。且曰吾兄弟比以安。尨也可使無吠。穆叔。子皮。及曹大夫。興拜。
長いが許されよ。楚でひどい目に遭った人たちが楚から脱出後、バカスカ詩経の歌を歌って含意を暗に示す気違った真似を繰り広げておる。やめて頂きたいものだ(よだれ)。ともあれこの内容を追ってみよう。楚から脱出して後、鄭に逗留することになった趙孟、叔孫豹、曹の大夫の三名。主賓は趙孟であるが、その趙孟が初手を取り、歌う。
「瓠葉」(宴は質素でお願い!)
願いが聞き入れられ質素になった宴では、叔孫豹が口火を切る。
「鵲巢」(助けてくれてサンキュー!)
「采蘩」(あんたのお願い聞くぜ!)
そこにギャラリーの子皮が歌う。
「野有死麕」(楚に好き勝手させるな!)
最後に趙孟が歌う。
「常棣」(仲良くして楚を防ごうぜ!)
お、おう……?
ともあれ、このシーンにおける鵲巢についてはカササギの巣=鄭で落ち着いた鳩=趙孟らがこうして紐帯を結び合えたことを喜ぶ、とすべきなのかな。
■魏明帝陛下の宮殿にカササギ!
・三國志25 高堂隆
・晋書28 五行中
・宋書32 五行三
陵霄闕始構,有鵲巢其上,帝以問隆,對曰:「詩云『惟鵲有巢,惟鳩居之』。今興宮室,起陵霄闕,而鵲巢之,此宮室未成身不得居之象也。
魏の明帝と言えば宮殿造営がご趣味の大変典雅な方であったが、魏のお財布はそれによってやや軽くなったそうである。そんな中、それでも陵霄闕、言ってみれば眺望のきく展望台を建て始めた。ら、その骨組みにカササギが巣を作る。この現象はなんなのだと明帝が高堂隆に聞いたところ、「カササギの作った巣には、やがてハトが住み始めますね」、宮殿を造営してみても、住むのは別の主になってしまいますぞ、と語るわけである。なおそれで明帝は建造を取りやめ、建築責任者の工事がトロいせいだと責めて殺した。南無。
■孫和の任地着任を祝うカササギ
・三國志59 孫和 注
・晋書28 五行中
・宋書32 五行三
和之長沙,行過蕪湖,有鵲巢于帆檣,故官寮聞之皆憂慘,以爲檣末傾危,非乆安之象。或言鵲巢之詩有「積行累功以致爵位」之言,今王至德茂行,復受國土,儻神靈以此告寤人意乎
はじめ孫権の後継者と見なされた孫和はその後の後継者を巡るトラブル(二宮の変)に巻き込まれ廃嫡、長沙に幽閉されることとなった。その道すがら、孫和の乗る船の帆にカササギが巣を結ぶ。帆という安定しない場所に巣を結ぶいとなみは「その地位が安定しない」ことを示すとして人々は憂えたが、別の人が、慰めのためか、当詩の詩序である「夫人之德也。國君積行累功以致爵位,夫人起家而居有之,德如鳲鳩乃可以配焉。」より言葉を引用し、孫和様はここから奇跡の復活をお遂げになるんですよ! と語った、とするものである。なお間もなく孫和は自殺を命じられた。
■王澄さん、「国の繁栄」を引っこ抜く?
・晋書43 王済
・世説新語 簡傲6
王平子出為荊州,王太尉及時賢送者傾路。時庭中有大樹,上有鵲巢。平子脫衣巾,徑上樹取鵲子。涼衣拘閡樹枝,便復脫去。得鵲子還,下弄,神色自若,傍若無人。
西晋官人の残りカス代表みたいな感じで石勒に殺された、王衍。その弟が王澄である。世説新語を追っていた時にはよくよく意味の分からぬエピソードだと思って眺めていたのだが、「鵲巢」が国家の繁栄をある意味象徴している所から引くと、「そこから小鳥を盗み出してきた」となるのは、なかなかにドギツい。
■孝文様おこ
魏書21.1 元禧
剛柔著於易經,鵲巢載于詩典,所以重夫婦之道,美尸鳩之德,作配君子,流芳後昆者也。
元禧は孝文帝の弟であるが、だいぶ行状がよろしくなかったそうである。ここでもほかの王の召し抱えている奴婢を奪い取ったようで、それについて孝文帝より怒られておる、ようである。詔勅はよくわからぬ。
■ヘーカこの辺で気を引き締めましょうぜ
魏書67 崔光
比鴟鵲巢于廟殿,梟鵩鳴於宮寢,菌生賓階軒坐之正,準諸往記,信可為誡。
王城の太極殿で何らかの瑞祥が発生したことを、崔光が宣武帝に報告したときの一節である。昔にもカササギが宮殿に巣を作ったことがありましたよね、と、微妙に三国時代の曹叡の故事を引き合いに出し、ここが気の引き締めどころですぞ、と訴えておるようである。上表はよくわからぬ。
■袁術サマあんたバカですか
後漢書75 袁術
昔周自后稷至于文王,積德累功,參分天下,猶服事殷。
漢帝の権威が下がっているからぼくが皇帝になってもいいんじゃない!? と、あるとき袁術が放言した。すると誰もが凍り付く中、閻象と言う人物がバッサリと切り捨てる。「周王だって后稷から文王に至るまで功績挙げまくってんのに殷に仕えてんだろうがアホか」である。そこに出てくる「積德累功」が、当詩詩序「國君積行累功」よりの拾い上げであろう、と言われておる。
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E9%B5%B2%E5%B7%A2%E3%80%8B
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