汝墳(夫を待つ妻/賢王を待つ士大夫)
妻→夫 苦役 救いの手 希望
あの汝水の堤のもとで
枝葉を切り払い、薪を取る。
あなたのお顔を伺えず、
ひもじい思いをするかのよう。
あの汝水の堤のもとで
再び伸びてきた枝葉を切り払い、
薪を取る。
ようやくあなたにお会いでき、
私も世を儚まずに済む。
マトウダイの尾が赤らむのは、
王政の炎上を語るという。
そのさなかにあるのは苦しいが、
大いなる父母は、
間もなく我らをお救い下さろう。
○国風 周南 汝墳
汝水は洛陽の南に流れの源流がある、淮水の支流である。つまり洛陽からやや離れたエリアにて殷王朝の悪政に苦しめられていた家の婦人が、行役に駆り出された夫を思いつつ「文王の救い」を待つ、といった趣旨の詩である。第一連と第二連の間では「刈り取った枝葉」が「再び生い茂る」時間の経過を語られている。どれだけの間夫と離れ離れになっていたのか、を拾うことで、第三連の内容への重みが出てこよう。
○儒家センセー のたまわく
「道化行也。文王之化行乎汝墳之國。婦人能閔其君子。猶勉之以正也。」
君子とは字義のごとく「偉大なるお方」と解釈すべきである! つまり汝水源流近くの婦人が殷王の苛政に苦しみ、文王による救いを待つことを歌っておるのである!
■汝墳の詩を思う
周磐の歌う汝墳は親のためにがんばる自分の姿に重ね合わせ、どうにかして親に楽をさせてあげたい思いが伝わってくる。魏書はいかん、いかん……孝文帝元宏であるが、「ハッハァー! 漢水エリアかっぱいでやるぜぇ-!」よろしく南征したときに臣下に向かって歌い上げておる。確かこの南征は失敗したのではなかったか。
・後漢書39 周磐
居貧養母,儉薄不充。嘗誦詩至汝墳之卒章,慨然而歎,乃解韋帶,就孝廉之舉。
・魏書56 鄭羲
高祖又歌曰:「遵彼汝墳兮昔化貞,未若今日道風明。」
■汝南の丘
漢書28 地理
女陰,故胡國。都尉治。莽曰汝墳。
漢書に載る地名である。ここを王莽が「汝墳」と呼んだのであるな、な、なるほど……そ、そうか……それにつけても、もう少し、こう、どうにかならんかったのか……
■劉裕登場までの道のりを。
宋書20 楽二
惟天有命,眷求上哲。赫矣聖武,撫運桓撥。功並敷土,道均汝墳。
宋の王韶之が「宋宗廟登歌」という歌を作っておる。皇帝につくものは七代遡って、各代を祀ることになる。これは劉裕そのものを歌ったもの。天命を受け、過去の偉人の道のりを踏み、その聖なる武勇を明らかとした。その功績は国をも覆い尽くすものであり、また「汝墳への道のりを」切り開いた。汝墳は詩で歌う通り洛陽南部とするのも良かろうが、ここにはもう一つ上の含意、即ち「文王のごとく偉大なる王業を切り開いた」と見なすのがよかろう。
■陛下すいません、キモいです……
魏書63 王肅
不見君子,中心如醉,一日三歲,我勞如何。飾館華林,拂席相待,卿欲以何日發汝墳也?故復此敕。
琅邪王氏、あの王導の子孫である王粛は南斉より亡命、北魏入りした。そしてその軍才を開花させ、孝文帝より高く賞賛されるのであるが、孝文帝が王粛の手を取って開口一番にほざいた台詞がこれである。「不見君子」は当詩未見君子の変調であるし、「中心如醉」は王風黍離、「一日三歲」は王風采葛の「一日不見 如三歲兮」の変調、「我勞如何」は小雅綿蠻。琅邪王氏と言えば南朝気風のド体現者であり、そういう相手を最大限褒め称えたいという元宏くんの力みが全力で発揮されており、まぁその、うん、なんて言うか、……キモい。
■国が燃えてっから!
「燬」とは、もう字面の通り、大火事。つまり近日ネット上で頻出する言葉「炎上」のこの上なく雅やかなお言葉である。張重華は臣下の索遐に「マジでもうちょっとマジメに政治やってくださいよ!」と泣きつかれておるし(なお改めなかった)、易雄は王敦の乱に際し「この微力では王国の炎上を止められなかった、ならば潔く死んでやるわ!」と叫んでおる。気骨の人が好きそうな言い回しであるな。
・晋書86 張重華
今王室如燬,百姓倒懸,正是殿下銜膽茹辛厲心之日。
・晋書89 易雄
惜雄位微力弱,不能救國之難。王室如燬,雄安用生為!
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%80#%E3%80%8A%E6%B1%9D%E5%A2%B3%E3%80%8B
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