葛覃(働く妻の徳/妃の徳)

葛覃かつたん 引用31件

妻 仕事 里帰り 妃の徳 倹約 孝



葛之覃兮かつしたんけい 施于中谷しうちゅうこく 維葉萋萋いようさいさい

黃鳥于飛こうちょううひ 集于灌木しゅううかんぼく 其鳴喈喈そうめいかいかい

 伸び伸びゆく葛の葉は谷間を覆う。

 その若葉の生き生きとしたこと。

 灌木にこぞるウグイスの鳴き声は

 実に朗らかなもの。

 

葛之覃兮かつしたんけい 施于中谷しうちゅうこく 維葉莫莫いようばくばく

是刈是濩ぜがいぜかく 為絺為綌いちいこく 服之無斁ふくしむえき

 伸び伸びゆく葛の葉は谷間を覆う。

 その若葉のこんもりとしたこと。

 これらを刈り取り、煮詰め、

 着物として仕立て上げ、

 身にまとうのを厭いはしない。


言告師氏げんこくしし 言告言歸げんこくげんき 

薄污我私はくおがし 薄澣我衣はくかんがい

害澣害否かつかんかつひ 歸寧父母きねいふぼ

 ばあやに里帰りを告げましょう。

 その前に心身を清めましょう。

 何をきれいにし、

 何をそのままにしておきましょう。

 あぁ、早く娘の顔を見せ、

 両親をほっとさせてやりたいもの。




○国風 周南 葛覃

葛葉の青々としたさまと、ウグイスの鳴く情景を描き出した後、その葛葉がさまざまに加工され、シンプルな衣服となる。衣服づくりの労苦を厭わず仕事に精を出す若妻の働きぶりの盛んさへの称揚につながる。けれども、たまには里帰りをして父母を喜ばせたい。嫁ぎ先を留守にする間の準備も整えつつ。




○儒家センセー のたまわく

「后妃之本也。后妃在父母家,則志在於女功之事,躬儉節用,服澣濯之衣,尊敬師傅,則可以歸安父母,化天下以婦道也。」

ここでもやはり文王の妃の徳の素晴らしさがうたわれている! 文王が偉大であるからこそその妃もまた徳あるものとして感化されているのである! 葛が伸び、生い茂すさまは妃が日に日に成長し、容色を増すさまを言う! 妃として王の家に献身しつつも、生んでくれた父母への想いをも忘れることはない! まったくこれこそが世の妻がとるべき道であろう!




■夫人の徳を晋書が語る

晋書31 后妃伝序文

哲王垂憲,尤重造舟之禮;詩人立言,先獎葛覃之訓。


賢き王の政において、もっともわきまえるべきは周文王のなした「造船の礼」であると述べている。周の文王は正妻の太姒を嫁に迎えるにあたって渭水(かなり大きな川)に船を並べて橋を作り、その上で出迎えたという。そして太姒もまた文王の為に賢妻として働き、やがて二人の間には、のちに殷を倒して中原の覇権を獲得する武王と、その補佐をした弟たちが生まれる。「夫が妻を重んじ、妻が夫を重んじることで、はじめて偉業は成る」ことを語るために、この詩が引かれているわけである。




■涼やかな服

「絺」が葛の繊維で織った、目の細かな布。「綌」が同じく葛の、やや目の粗き布。涼しい服の代表格のようである。これが漢や宋の当時にも用いられておったのか、あるいは涼しき衣服の雅語であるのか。ここに踏み込むのはなかなかに難しそうであるな。


・漢書64.2 王褒

 故服絺綌之涼者,不苦盛暑之鬱燠;襲貂狐之煗者,不憂至寒之悽愴。

・宋書67 謝霊運

 謂寒待綿纊,暑待絺綌,朝夕飡飲,設此諸業以待之。




■何をも厭わず

「史書上では」二件しか出てこぬのだが、おそらく詩歌にまでレンジを広げればぽろぽろと出てくるのであろうな。なお詩経において大雅思齊、周頌振鷺、魯頌駉、魯頌泮水に見いだせる。詩経においてすら、わりと雅語扱いである。


・後漢書59 張衡

 惟盤逸之無斁兮,懼樂往而哀來

・宋書100 沈璞

 比恒疾臥,憂委兼疊,裁書送想,無斁久懷。




■ここに帰らん

「言」字を、詩経においては「ここに」として用いられることが多い。よって格調高き発言をしたいときにはちょくちょくこの表現が現れる。史書における発言でもちょくちょく出てまいるので、「ここ」に紹介をしておこう。


・史記42 鄭悼公

 睔私於楚子反,子反言歸睔於鄭。

・漢書67 楊王孫

 精神離形,各歸其真,故謂之鬼,鬼之為言歸也。

・三國志42 郤正

 收止足以言歸,泛皓然以容裔,欣環堵以恬娛,免咎悔於斯世,

・三國志47 孫権 注

 信恃舊盟,言歸于好,是以不嫌。若魏渝盟,自有豫備。

・晋書63 邵續

 言歸遺晉,仍荷寵授,誓盡忠節,實無二心。

・宋書54 袁湛

 游者言歸,游子既歸,則南畝闢矣。

・魏書21.1 元詳

 況江吳竊命,于今十紀,朕必欲蕩滌南海,然後言歸。

・魏書24 許謙

 今既盟之後,言歸其好,分災恤患,休戚是同。

・魏書45 裴駿 子 裴宣

 祿後養親,道不光國,瞻言往哲,可以言歸矣。

・魏書55 游明根

 高尚悠邈,便爾言歸,君臣之禮,於斯而畢,眷德思仁,情何可已。

・魏書82 常景

 景藝業該通,文史淵洽,歷事三京,年彌五紀,朝章言歸,祿俸無餘,家徒壁立,宜從哀恤,以旌元老。




■実家に帰らせて頂きます!

割と一般詞化しておるようであるが、なにぶん「女性が実家に戻る」意味合いであるから、オトコ祭の史書ではなかなか立場が狭いのが伺える。基本的には離縁、死別後に用いられる言葉のようであるが、王戎のシチュエーションは本当にただの里帰りなので、わりと用法は幅広そうである。


・後漢書37 桓栄

 鸞卒,姑歸寧赴哀,將至,止於傳舍,整飾從者而後入,曄心非之。

・後漢書42 劉蒼

 伯父歸寧 乃國,詩云叔父建爾元子,敬之至也。

・後漢書77 黄昌

 昌為州書佐,其婦歸寧於家,遇賊被獲,遂流轉入蜀為人妻。

・後漢書81 陳重

 同舍郎有告歸寧者,誤持隣舍郎絝以去。

・後漢書84 劉長卿妻

 生一男五歲而長卿卒,妻防遠嫌疑,不肯歸寧。

・後漢書84 董祀妻

 夫亡無子,歸寧 于家。

・晋書32 康献褚皇后

 衞將軍裒在宮庭則盡臣敬,太后歸寧之日自如家人之禮。

・晋書43 王戎

 女後歸寧,戎色不悅,女遽還直,然後乃歡。

・晋書49 阮籍

 籍嫂嘗歸寧,籍相見與別。

・魏書43 劉休賓

 崔氏先歸寧在魯郡,邪利之降也,文曄母子遂與俱入國。

・魏書67 崔光

 夫人父母在,有時歸寧,親沒,使卿大夫聘。

・魏書92 魏溥妻房氏

 緝年十二,房父母仍存,於是歸寧。

・魏書92 盧元礼妻李氏

 盧氏合家慰喻,不解,乃遣歸寧。

・魏書92 刁思遵妻魯氏

 母不達其志,遂經郡訴,稱刁氏吝護寡女,不使歸寧。




毛詩正義

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