国風(こくふう)

周南(しゅうなん)

関雎(男の恋・嫁取り/妃の徳)

関雎(かんしょ) 引用123件

男→女 嫁取り 恋愛 妻の徳 后の徳 国の安泰



關關雎鳩かんかんしょきゅう 在河之洲ざいかししゅう

窈窕淑女ようちょうしゅくにょ 君子好逑くんしこうきゅう

 川の中洲にてつがいとなり、

 連れ添って鳴くミサゴを見る。

 かのミサゴのごとく、

 たおやかに寄り添う女性こそ

 君子の憧れ。


參差荇菜さんさこうさい 左右流之さうりゅうし

窈窕淑女ようちょうしゅくにょ 寤寐求之ごびきゅうし

求之不得きゅうしふとく 寤寐思服ごびしふく

悠哉悠哉ゆうやゆうや 輾轉反側てんてんはんそく

 川べりに長短生い茂る水草を

 右に左に探し求めよう。

 寝ても覚めても、

 かの淑女を求めるかのよう。

 求めたからと

 得られるわけでは無いけれど、

 思いはますます募りゆく。

 何とも遥かなことよ。

 夜な夜な寝返りをしては、

 さらに思い募らせるのだ。


參差荇菜さんさこうさい 左右采之さうさいし

窈窕淑女ようちょうしゅくにょ 琴瑟友之きんしつゆうし

參差荇菜さんさこうさい 左右芼之さうぼうし

窈窕淑女ようちょうしゅくにょ 鍾鼓樂之しょうこがくし

 川べりに長短生い茂る水草を

 右に左に採取しよう。

 貞淑なる婦女が琴を友とし

 艶やかに弾くさまを思う。

 川べりに長短生い茂る水草を

 右に左に摘み取ろう。

 貞淑なる婦女がリズムを取って

 楽しんでいるさまが浮かぶ。




○国風 周南 関雎

国風は詩のカテゴリ名。編名は地名。各エリアの風土を詩にあらわしている、とされている。そして周南は、現在でいう洛陽周辺のエリア。まさに当時の天下のど真ん中である。そんなエリアの冒頭を飾るこの詩では、つがいとなって仲良しなさまをよく見せる鳥、ミサゴに己の姿を重ね、しかし連れ合いは見いだせていないという、ご覧の通りセーヨクブリバリなやんごとなき身分の男の子が理想の女の子を求めて悶えている。何ともほほえましき限りである。




○儒家センセー、のたまわく

「后妃之德也,風之始也,所以風天下而正夫婦也,故用之鄉人焉,用之邦國焉。」

妃の徳を謳う、国風詩の先駆けである! 天下に「風」を流し込むことで夫婦の関係をあるべきものに正すのである! こうして地元の者たちが正され、それにより国全体が正されるのである!




■關雎は女徳の礎

さすが詩経のトップバッターである。詩経の序からして「家族繁栄の礎は妻の徳にあり」と言い切るだけあり、家=国家の繁栄の基として援用され、盛大に語られる。更に言えば、さして長いわけでもない当詩である。そこに盛り込まれるボキャブラリーも込みで關雎の徳を語っておる気配がある。鬼か。


・論語 八佾20

 子曰:「『關雎』,樂而不淫,哀而不傷。」


・史記47 孔子

 古者詩三千餘篇,及至孔子,去其重,取可施於禮義,上采契后稷,中述殷周之盛,至幽厲之缺,始於衽席,故曰「關雎 之亂以為風始,鹿鳴為小雅始,文王為大雅始,清廟為頌始」

・史記49 外戚世家序

・漢書97.1 外戚伝序

 易基乾坤,詩始關雎,書美釐降,春秋譏不親迎。

・史記121 儒林序

 夫周室衰而關雎作,幽厲微而禮樂壞,諸侯恣行,政由彊國。


・漢書60 杜周 孫 杜欽

 佩玉晏鳴,關雎 歎之,知好色之伐性短年,離制度之生無厭,天下將蒙化,陵夷而成俗也。

 唯將軍信臣子之願,念 關雎 之思,逮委政之隆,及始初清明,為漢家建無窮之基,誠難以忽,不可以遴。

 欽浮沈當世,好謀而成,以建始之初深陳女戒,終如其言,庶幾乎 關雎 之見微,非夫浮華博習之徒所能規也。

 易基乾坤,詩首關雎,書美釐降,春秋譏不親迎。

・漢書81 匡衡

 孔子論『詩』以『關睢』為始,言太上者民之父母,後夫人之行不侔乎天地,則無以奉神靈之統而理萬物之宜。故『詩』曰:「窈窕淑女,君子好仇。」言能致其貞淑,

・漢書97.1 序漢97

 易基乾坤,詩首關雎,書美釐降,春秋譏不親迎。


・後漢書2 明帝

 昔應門失守,關雎 刺世;飛蓬隨風,微子所歎。

・後漢書10.1 皇后紀 序

 故康王晚朝, 關雎作諷;宣后晏起,姜氏請愆。

・後漢書10.1 光烈陰皇后

 既無關雎之德,而有呂、霍之風,豈可託以幼孤,恭承明祀。

・後漢書26 宋弘 評

 宋弘止繁聲,戒淫色,其有關雎之風乎!

・後漢書28.2 馮衍下

 美關雎之識微兮,愍王道之將崩;拔周唐之盛德兮,捃桓文之譎功。

・後漢書30.2 郎顗

 修禮遵約,蓋惟上興,革文變薄,事不在下。故周南之德,關雎政本。

・後漢書59 張衡

 歌曰:天地烟熅,百卉含蘤。鳴鶴交頸,雎鳩相和。處子懷春,精魂回移。如何淑明,忘我實多。

 呬河林之蓁蓁兮,偉關睢之戒女。

・後漢書84 列女序

 詩書之言女德尚矣。

・後漢書84 曹世叔妻

夫婦之道,參配陰陽,通達神明,信天地之弘義,人倫之大節也。是以禮貴男女之際, 詩 著關雎之義。




■妃とはどうあるべきか。

三國志5 明悼毛皇后 注

古之王者,必求令淑以對揚至德,恢王化於關雎,致淳風於麟趾。


王に相応しいのは、王の隣に立つに値する徳高き女性が配されるべき、と説く。その徳は当詩で称揚され、また国は同じ周南の「麟之趾」がごとく栄えるのであろう、と語るのである。なお「悼」の諡が語るように、のちに毛氏は死を賜っている。不品行のため、とのことである。つまり、この「べき論」に相応しくない女性であった、とするのである。




■孫権の子の嫁取りを説く

三國志53 程秉

婚姻人倫之始,王教之基,是以聖王重之,所以率先眾庶,風化天下,故『詩』美『關睢』,以為稱首。願太子尊禮教於閨房,存『周南』之所詠,則道化隆於上,頌聲作於下矣。


孫権の嫡子、孫登に婚姻の重要さを語っている。王が嫁を取るのが国の繁栄の第一歩である、即ち皇太子が妃と徳高きオセッセセをすることによって、民らもまた徳高きオセッセセをするようになる、そして国は栄える。これが關睢にて歌われている、と厳かに説いたのである。




■夫婦の仲を讃える1

晋書32 康獻褚皇后

伏惟陛下德侔二媯,淑美關雎,臨朝攝政,以寧天下。


褚皇后は東晋康帝の皇后であったが、その康帝が在位わずか一年で死亡、彼女は若くして皇太后となってしまった。そこで臣下の蔡謨らが彼女に指揮をとってほしいと願い出るにあたって述べた言葉である。「皇后陛下は夏の禹王の妻となった塗山や殷の始祖である簡狄のような素晴らしい細君としての徳をお持ちであり、關雎に称えられるがごとき妻としての貞淑さもお持ちでいらっしゃる。どうか親しく政をお導きください」と訴え出ている。




■二南は国家繁栄の心

晋書59 司馬亮

大司馬、汝南王亮體道沖粹,通識政理,宣翼之績,顯於本朝,二南之風,流于方夏,將憑遠猷,以康王化。


八王の乱前夜の話である。司馬亮は外戚として権勢をふるっていた楊駿の排除に成功、その功績をたたえられた。「国を正しき姿に戻した」功績を、当詩の詩序にある「南、言化自北而南也。……周南召南、正始之道、王化之基」より翻案し讃えておる。なおこののち司馬亮は賈南風に疎まれたため殺された。




■夫婦の仲を讃える2

晋書102 劉聡

是故周文造舟,姒氏以興,關雎之化饗,則百世之祚永。


匈奴漢の三代目皇帝、劉聡は皇后を同時に四人も立てるという乱倫ぶりを決めていた。その中のひとりを娶らんとしたときに臣下が諫めた言葉の一節である。「周の文王はお后様を盛り立てたがために、關雎に称えるような周の繁栄を導けたのですよ」となる。つまり、ひとりの皇后を大切にしないのであれば逆のことが起こるぞ、と諫めたのである。そして劉聡の死後、無事に逆のことが起こった。




■屋上屋を架すとか無駄じゃないっすか?

晋書89 司馬彪

『春秋』不修,則仲尼理之;『關雎』既亂,則師摯修之。前哲豈好煩哉?


詩経引用とみせかけ關雎を語る論語の引用である。なめとんのか。春秋を著した孔子に春秋を修めていない、などと言う必要があるか? 關雎の演奏が乱れたからと、關雎演奏の第一人者である魯の大音楽家、摯に対してつべこべ言うものがあるか? そういった余計なこと、煩わしいことをしても仕方あるまい、と司馬彪は語っておる。なお論語の出典は論語泰白編。




■后にふさわしき徳の持ち主(笑)

晋書39 荀勖

勖與紞伺帝間並稱「充女才色絕世,若納東宮,必能輔佐君子,有『關雎』后妃之德。」遂成婚。


時の皇帝に、寵臣賈充の娘を皇后に迎えてはどうか、とする荀勖の立案である。まさに關雎にて讃えられる通りの女性だから、と。ところで賈充の娘と言えば、あの賈南風。晋国最強の悪女と晋書にて評されておるお方である。そこを踏まえると、「彼女がサイコー!」とのたまう荀勖には、なかなか晋書さんもキツい評価をお下しのようである。




■窈窕、女徳のありよう

儒の精神のもとでは、夫人には四つの徳が求められる、とする。貞節さ、控えめな物言い、淑やかさ、機織りの腕、である。この内窈窕が前三つをフォローできておるイメージもある。となれば、女徳のそのほとんどはこの言葉に集約されておると言っても過言ではあるまい。なおこの言葉は、大雅でそのグレードアップ版が登場する。「徽音」である。


・漢書57 司馬相如

 互折窈窕以右轉兮,橫厲飛泉以正東。

・漢書77 劉輔

 雖夙夜自責,改過易行,畏天命,念祖業,妙選有德之世,考卜窈窕之女

・漢書97.2 孝成班婕妤

 倢伃誦詩及窈窕、德象、女師之篇。

・漢書99.1 王莽上

 公女漸漬德化,有窈窕 之容,宜承天序,奉祭祀。


・後漢書10.1 皇后紀 序

 進賢才以輔佐君子,哀窈窕而不淫其色

・後漢書40.1 班固上

 後宮之號,十有四位,窈窕 繁華,更盛迭貴,處乎斯列者,蓋以百數。

・後漢書80.2 辺譲

 爾乃攜窈窕 ,從好仇,徑肉林,登糟丘,蘭肴山竦,椒酒淵流。

・後漢書84 曹世叔妻

 入則亂髮壞形,出則窈窕 作態,說所不當道,觀所不當視,此謂不能專心正色矣。


・三國志21 劉楨

 南垠之金,登窈窕之首


・晋書21 礼下

 咨某官某姓之女,有母儀之德,窈窕之姿,如山如河,宜奉宗廟,永承天祚。

・晋書23 楽下

 汲寒漿,飲少年,少年窈窕何能賢。

・晋書32 評

 芬實窈窕,芳菲婉嫕。

・晋書87 李暠

 崇崖崨嶫,重嶮萬尋,玄邃窈窕,磐紆嶔岑,

・晋書94 陶潜

・宋書93 陶潜

或命巾車,或棹孤舟,既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。


・宋書14 礼一

 咨某官某姓之女,有母儀之德,窈窕之姿,如山如河,宜奉宗廟,永承天祚。

・宋書21 楽三

 唶我人民安知烏子處,蹊徑窈窕安從通。

 既含睇,又宜笑,子戀慕予善窈窕。

・宋書22 楽四

 少年窈窕何能賢?

・宋書67 謝霊運

 濬潭澗而窈窕,除菰洲之紆餘。

 諸澗出源入湖,故曰濬潭澗。澗長是以窈窕。

 乘恬知以寂泊,含和理之窈窕。

 暨其窈窕幽深,寂漠虛遠。


・魏書21.1 元禧

 至於諸王娉合之儀,宗室婚姻之戒,或得賢淑,或乖好逑。自茲以後,其風漸缺,皆人乏窈窕,族非百兩,擬匹卑濫,舅氏輕微,違典滯俗,深用為歎。

・魏書91 張淵

 酒旗建醇醪之旌,女牀列窈窕之色。

 乃可侍衞天王左右,故言列窈窕之色也。





■君子はよき妻を求める

後漢書10.2 評

坤惟厚載,陰正乎內。詩美好逑,易稱歸妹。


後漢書の后妃伝に関する評論の冒頭である。どちらかと言えば易経の文言に則っておるためなかなかに解読をしきれぬのだが、その中にあり「窈窕淑女,君子好逑」を讃えておることは伺える。なお漢書及び後漢書には「君子好仇」と表記するパターンも見えておるのだが、こちらは早々に史書上では廃れたようである。




■淑女を求める

当句は余りにも現代語化しておるのだが、史書上ではむしろ参照されることが少ない言葉だったようである。さぞたくさん登場するのだろうと戦々恐々としたところ、思いっきり肩透かしを食らった。


・漢書60 杜周 孫 杜欽

 詳擇有行義之家,求淑女 之質,毋必有色聲音技能,為萬世大法

 故詠 淑女 ,幾以配上,忠孝之篤,仁厚之作也。

・漢書99.3王莽下

 莽於是遣中散大夫、謁者各四十五人分行天下,博采鄉里所高有淑女 者上名。




■寝ても覚めても

「寤寐」は陳風澤陂にも見える句で、共に「寝ても覚めてもあの人が恋しい」となるわけであるが、これがいざ史書の中に出てくると「寝ても覚めても国難に思いが至る」的な用法となる。ずらりと並ぶ援用はそのほとんどが詔勅、上奏である。これは愛しいあの子を想って寝返りを打つ若者も寝床からずり落ちそうであるな。


・漢書97.2 孝成班婕妤

 每寤寐而絫息兮,申佩離以自思,陳女圖以鏡監兮,顧女史而問詩。

・後漢書4 和帝

 寤寐歎息,想望舊京。

 朕寤寐恫矝,思弭憂釁。

 寤寐永歎,用思孔疚。

・後漢書4 殤帝

 寤寐憂惶,未知所由。

・後漢書6 質帝

 寤寐永歎,重懷慘結。

・後漢書40.2 班固下

 茲事體大而允,寤寐次于聖心。

・後漢書57 劉陶

 白駒諭賢人也。監寐猶寤寐也。

・後漢書58 臧洪

・三國志7 臧洪

 隔闊相思,發於寤寐。

・後漢書99 祭祀下

 宗廟至重,朕幼無知,寤寐憂懼。

・三國志1 曹操

 每將鏤符析瑞,陳禮命冊,寤寐慨然,自忘守文之不德焉。

・三國志8 陶謙

 華夏沸擾,于今未弭,包茅不入,職貢多闕,寤寐憂歎,無日敢寧。

・三國志32 劉備

 常恐殞沒,孤負國恩,寤寐永歎,夕惕若厲。

・三國志60 周魴

 每獨矯首西顧,未嘗不寤寐勞歎,展轉反側也。

・晋書31 左貴嬪

 寢疾彌留,寤寐不康。

・晋書40 賈謐

 女大感想,發於寤寐。

・晋書80 王羲之

 受殊遇者所以寤寐長歎,實為殿下惜之。

 是用寤寐永歎,若墮深谷。

・晋書108 慕容廆

 隔以羯寇,翹首引領,係心京師,常假寤寐,欲憂國忘身。

・宋書6 劉駿

 永言勤慮,寤寐載懷。

・宋書14 礼一

 臣所以遠尋伏念,寤寐永歎者也。

・宋書22 楽四

 嗟我殷憂,載勞寤寐。

・宋書75 王僧達

 遠近風議,不獲稍進,臣所用夙宵疾首,寤寐疚心者也。

・宋書75 顔竣

 危辱將及,十手所指,諭等膏肓,所以寤寐兢遽,維縈苦疾者也。

・宋書84 袁顗

 跂予南服,寤寐延首,若反棹沿流,歸誠鳳闕

・魏書7 元宏

 寤寐思求,罔知所益。

・魏書11 元脩

 寤寐矜之,良有嗟悼。

・魏書21.1 元羽

 夙宵寤寐,載懷怵惕。

・魏書54 高閭

 寤寐思此,如有隱憂。

・魏書78 張普恵

 寤寐惟省,謂宜追正,愚固所陳,萬無可採。




■思い服す

当詩ではごろごろと寝返りを打っては思いを募らせることを語るわけであるが、ここでの引用を見ると「皇帝が下々を想う」「下々が皇帝を想う」的に用いられる。そこより思考を進めれば、当詩が「皇帝がよき妃を娶ることを祝う」詩として認識されていた、と認識することが叶うであろう。


・後漢書3 章帝

 思服帝道,弘此長懋。儒館獻歌,戎亭虛候。

・宋書67 謝霊運

 元誕德以膺緯,肇回光於陽宅。明思服於下武,興繼代以消逆。

・宋書81 顧覬之

 雖復鉗桎羿、奡,思服巢、許之情;捶勒曾、史,言膺蹻、跖之慮。不然之事,斷可知也。

・魏書100

 契丹國家之美,心皆忻慕,於是東北羣狄聞之,莫不思服。

・魏書109 楽

 思服典章,留心軌物,反堯舜之淳風,復文武之境土,




■輾轉反側

いや、これはうがち過ぎの話なので聞き流して欲しいのだがな。後漢書光武帝紀に「反側」句が見え、その臣下たる来歙の曾孫が史書上でそれとセットになる言葉を用いておる。これは時を超えた結婚と呼んで差し支えないのでは……?


・後漢書1.2 光武帝上

 曰:「令反側子自安。」

・後漢書15 来歙 曾孫 来歴

 屬通諫何言,而今復背之?大臣乘朝車,處國事,固得輾轉若此乎!


しかしそこに張衡くんが割り込んでくるのである。まったく、張衡くんは無粋であるな!


・後漢書59 張衡

夫吉凶之相仍兮,恆反側而靡所。


さておき、「展」轉や反側そのものはかなり用いられておる。寝返りを雅やかに言いすぎであろう。もっとも展轉については軍事的な展開といった用法が用いられているようであるがな。


展轉

・漢書94.2 匈奴下

 匈奴雖欲展轉,奈失重利何,奈欺上天何,奈殺愛子何。

・後漢書64 趙岐

 賊欲脅以為帥,岐詭辭得免,展轉還長安。

・後漢書65 段熲

 熲遂窮追,展轉山谷閒,自春及秋,無日不戰,虜遂飢困敗散,北略武威閒。

・後漢書88 西域序

 北虜呼衍王常展轉蒲類、秦海之閒,專制西域,共為寇鈔。

・三國志13 王朗

 太祖表徵之,朗自曲阿展轉江海,積年乃至。

・三國志18 閻温

 三府並辟,展轉仕進,至郡守、刺史、太僕

・三國志37 法正

 若事窮勢迫,將各索生,求濟門戶,展轉反覆,與今計異,不為明將軍盡死難也。

・晋書73 庾亮

 皇家多難,未敢告退,遂隨牒展轉,便煩顯任。

・晋書100 張昌

 由是郡縣官長皆躬出驅逐,展轉不遠,屯聚而為劫掠。

・宋書67 謝霊運

 既入東南傍山渠,展轉幽奇,異處同美。


反側

・漢書8 宣帝

 朕既不逮,導民不明,反側晨興,念慮萬方,不忘元元。

・三國志12 邢顒

 為上招謗,其罪不小,以此反側。

・三國志32 劉備

 六合之內,否而未泰,惟憂反側,疢如疾首。

・三國志53 薛綜

 夙夜反側,克心自論,父子兄弟,累世蒙恩

・三國志60 周魴

 每獨矯首西顧,未嘗不寤寐勞歎,展轉反側也。

・三國志61 陸凱

 臣聞宮功當起,夙夜反側,是以頻煩上事,往往留中

・三國志64 諸葛恪

 夙夜反側,所慮如此,故聊疏愚言

・晋書84 王恭

「未聞宰相之坐有失行婦人。」坐賓莫不反側,道子甚愧之。

・宋書60 范泰

 臣比陳愚見,便是都無可採,徒煩天聽,愧怍反側。

・魏書79 鹿悆

 旦奉音旨,冒險祇赴,不得瞻見,內懷反側。



■求めど得られず

求之不得と言う形状をそのまま史書中にねじ込めばその「求める」度合いもやや格調高きものともなろう。例えば、詩経の暗誦と言ってもひとによって習熟度は様々であろうが、少なくとも初っ端も初っ端である関雎は誰しもが暗誦出来たに違いない。その辺りのトリガーとしてこの句が機能していてもおかしくはなさそうである。


・三國志47 孫権

 權聞達有書,求之不得,乃錄問其女,及發棺無所得,法術絕焉。

・晋書106 石虎上

 御史因之擅作威福,百姓有美女好牛馬者,求之不得

・魏書29 奚斤

 時國有良馬曰「騧騮」,一夜忽失,求之不得

・魏書55 劉撫之

 思祖有二婢,美姿容,善歌舞,侍中元暉求之不得,事遂停寢。

・魏書95 石虎

 御史因之,擅作威福,民有美女、好牛馬,求之不得

・魏書95 姚萇

 二狐入長安,一登興殿屋,走入宮,一入于巿,求之不得。



毛詩正義

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