終末の蝶
流星の日、リィエルに奇跡が起こった。
突然身体が自由に動くようになったのだ。そして、彼女の周りを七色に輝く蝶が舞うようになった。
その蝶は草木を枯らし、虫を殺し、あまつさえリィエルの親友であるレインにまで襲いかかった。
何が起こったのかわからないまま、リィエルはレインを突き飛ばした。それがなにかはわからなかったけれど、レインに触れさせてはいけないと思ったから。
しばらくして、リィエルはその蝶を終末の蝶と名付けた。
光り輝く草木。この草木は、蝶が吸収しないもの。
ㅤ終末の蝶。リィエルが名付けたそれは、全てを吸収し、リィエルの成分とする。生物、無機物、固体、液体。気体は吸収できているのかはわからないが、それらを吸収する。
リィエルの意思ではない。それでも、蝶は奪い続ける。
その蝶が運んできた成分は、リィエルの身体を著しく成長させた。しかし、その代償はあまりにも大きい。制御不能の謎の力が、周囲を蝕んでいくのだから。
「ここも、もう枯れたのね」
一人。身体と引き換えにしたものの中で一番大きなもの。家族も、親友も、すべてリィエルに触れることは出来なかったから。
草木も、ビルも、大地をも喰らいながら、リィエルは歩く。蝶が人を見てしまったら、その人を蝶が殺してしまうから。だから、なるべく人目につかないような場所を移動し続けた。きっとリィエルを探す人もいるだろうが、リィエルの場所を知る人はいない。
ここは、元々緑に溢れた森だった。そして、リィエルが来てから僅か3日で枯れた。草木も、そこにいたはずの小さな命も、全てが散った。
もしも願いが叶うなら、リィエルの望むことは一つだけ。彼女自身の死だけだ。
「……願いなんて、もうごめんよ」
この呪われた力も願いの力だというのなら、もうこれ以上何も願ったりしない。せめて、他人に迷惑をかけるような真似はしたくない。本来ならば一人ひっそりと死ぬ運命だったのだから。
「……見つけた」
「っ!?」
聞き覚えのある声。大好きだった声。優しい声。
その声にリィエルが反応するよりも早く、終末の蝶は男に襲いかかる。
「逃げてっ!」
だが、蝶の突進をものともせず、男はそれらを全て避ける。まるで、その蝶の動きを全て知っているように。
「どうして……」
「こいつらは真っ直ぐなんだよ。動きも、気持ちも」
「えっ……?」
意味がわからなかった。気持ち、この蝶にそんなものがあるとは思えなかった。だけど、リィエルはその男のことをよく知っている。世界で一番信頼もしている。その言葉が信用に足るものだということもわかる。
だから、リィエルは彼の、レインの言葉を聞いてみることにした。
「なに?」
「そいつらは、俺たちの願いから生まれた存在だ」
「知ってる。それくらいはわかるわ」
「その蝶は、そういう存在だ」
「……は?」
「お前の意思なんだ、そいつらは」
「う、嘘よ。こんな風にしたのも、私のせいだって……」
「違う。それは願いの形だ。もう少し生きられるように、とか。そんな願いにすればこんなことにはならなかったかもしれないな」
願ったのは、『他よりも強い身体』。だから、終末の蝶は他の生物を、文字通り弱くしたのだ。その延長線上にあったのが、消滅。
そう考えれば納得はできる。根拠もなにもないけれど、そもそもこんな状況そのものがおかしいのだ、今更細かいことは気にしていられない。
「今、お前はなにがしたい?」
「……死にたい」
「なら、大丈夫だ」
その言葉を最後に、レインは蝶を避けながらリィエルに接近する。
「あっ、駄目……っ!」
「俺がお前を、殺してやるから……」
「あ……ぐ……」
レインが蝶に手を伸ばしたかと思うと、レインの手を吸収するよりも早く、リィエルに叩きつけられる。レインの腕は腐ったように細くなり、蝶を叩きつけられたリィエルの胸は灼けるように、蝶の力を受けた。
蝶の力は、2人の体を侵食していく。
終末の蝶は、リィエルの気持ちと同調する。だから、今はリィエルをも殺すことが出来た。リィエルが死にたいと願ったから。
「……さき、いってるからな」
「……うん……!」
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