第13話 週末

 いつものように週末がやってきた。

 モイラはまるで子供のようにはしゃいでいた。

 なんでも今夜のメインDJは、モイラの大のお気に入り、クリス・フレイザーなのだそうだ。

 地下鉄でエレファントアンドカッスルへ向い、そこから歩く。歩く。ひたすら歩く。

 モイラに遅れをとらないように早足で、

「楽しそうだね」

と、横からムネチカは語りかけた。

「とーぜん!」

「クリス・フレイザーってそんなに凄いの?」

「あたしにとっての神様!見た目はキューピーさんみたいなオジサンなんだけどね」

「そんな凄い人がスクアットパーティに来るの?」

 モイラは首がとれそうなほど大げさにうなずいた。よほど嬉しいらしい。

 

 やがて、目前に列車の高架が現れた。高架下にはレンガ造りの古びた壁がずっと続いている。

 壁ぞいに歩いていくと、少し先に人影が溜まっているのが見えた。

「今夜もドラッグ売るの?」

「ううん」

 ムネチカは何気なく「なぜ?」と訊いてみた。

 あのね、といってモイラは人差し指を立てながら、

「パーティにもいろいろあってね」

と、教師のようなそぶりで説明をはじめた。

「前に行ったところみたいに自由な場所もあれば、怖い連中がドラッグを売るためにパーティを開くケースもある。そんな場所は要注意。勝手に商売なんかしていると、身包みを剥がされて、ボコられて放り出されちゃうよ」

「今夜のパーティは、どっち?」

 モイラはケタケタと笑いながら、

「ダメなほう」

と、言った。

「笑えないよ」ムネチカはうなだれた。

 入り口には、空港でよく見かけるタイプの金属探知機があった。

 雰囲気が重々しい。バウンサー(警備員とういうか、用心棒)の数も多い。


 中へ進むと、バズとキーモが先に来ていた。

 モイラは二人の頬に自分の頬を寄せて挨拶した。

「今日こそ合法的に楽しむんだね」ムネチカの問いに、

「そんなわけないじゃん、バーカ」とモイラが振り返る。

 各々にエクスタシーが入ったビニールのパッケージが手渡された。

「おかわり自由だからね」モイラはウィンクし、

「いくよ」いうなり、メインフロアへ向かって歩き出した。

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