第11話 アフターパーティ

 モイラとバズとムネチカが帰路に着いたのは、金曜日の夜から四十八時間以上経った、日曜の夜だった。

 廃倉庫の入り口には、まだまばらに客たちが残っていたが、キーモやエイプリルの姿はもうなかった。

「いやー派手な誕生日会だったねー」モイラが伸びをする。

「こんなに長いだなんて。二日だよ、ふ・つ・か!」歩きながら、ムネチカは耳に指を突っ込み揺すってみる。

「あー」と声を出してみるが、いつものようには響かない。完全に鼓膜がバカになっていた。

 ムネチカにとって初めての事だらけの週末。いきなりドラッグディーラーの住処へ連れて行かれ、廃倉庫でのスクアットパーティへゆき、爆音で鳴るテクノミュージックのただなかで性別不明の少年にファーストキスを奪われ、違法なブツをさばき、最後は床で寝てしまった。

 途中、目を覚ますと、かたわらにモイラの姿があった。つぎに目を覚ますと、今度はとなりにバズが座っていた。

 寝心地は最悪だったけれど、守られている気がして、なんだか嬉しかった。

 ともあれ、疲れた足をなんとか動かし、バス停へ向かいながら歩いていると、バズからマリファナの入った巻き煙草がまわってきた。

 かるく吸い込んでみる。

 煙の塊が肺を圧迫して、強烈かつ独特な植物の匂いが口の中に広がる。ムネチカは思い切り咳き込んだ。

「なにー、はじめてなの?」弾けるように二人が笑った。


「あ」

 モイラが間の抜けた声を出して立ち止まった。

 バズとムネチカもすぐに足をとめた。

 オールドストリートの通りに立つ道路標識に、ブランコがぶら下がっているのだ。

「なにこれー」モイラがはしゃぎ声を上げて飛び乗った。

「だれだ、こんなとこにブランコつけたやつは」

 バズがいぶかしむ。

「ははははー、なにこれー、やばー」モイラは大きく揺れながら、気でも違ったかのように笑い続けている。

「ムービー撮ってー、ねー、撮ってー、ぎゃはー」

 バズが面倒くさそうにスマホを向ける。

「ムネチカも乗りなよー」

 最初は恥ずかしそうにしていたムネチカだが、あまりにも楽しそうなモイラを見て、自分も乗ってみたくなった。

「ぼ、ぼくも乗りたい」

 いったい誰が備えつけたのか、都会の一角にポツンと吊るされたブランコに乗り、ムネチカは思い切り勢いをつけて揺れ始めた。

「気持ちいいでしょー!」地上からモイラがさけぶ。

(いや、気持ち悪い)

 次の瞬間、ムネチカは宙に向かって、派手に嘔吐した。

慣れないビールと、初体験のドラッグ。そこへ、さっきのマリファナがトドメを刺したのだ。

 バズはスマホを構えたまま「きったねー」と後ろへ飛び下がった。

「ばっかじゃん」

 モイラは歩道にへたり込んで笑った。

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