第七話:

「……どうしたんですか?」

「いえ、何でもないですよ」


 先程から気になる視線。配布された課題を進めていると、向かい側からテリエシャさんがニマニマとこちらを見ていた。


 悪気はないのだろうが、集中が出来ない。

 といって「やめて」という訳にも行かず、無視するしかないのだが。


「ご主人様は、犬か猫、どっち派ですか?」

「ん? 急にどうした?」

「いえ、少し気になっただけですよ」


 犬か猫。

 普段は冷たいのに、たまに甘えてくる可愛さ。そしてなめらかな毛並み。寝る時は別なのに、起きたら隣りにいた時の可愛さ!


「圧倒的猫派!」

「ふふ。ご主人様も、猫にそっくりですよ」


 目を細め、笑いを零す。そんなテリエシャには、不思議な感覚を覚えた。

 楽しいのに、どこか寂しくて、どこか苦しくて。でも、そんな感覚が、俺は嫌いではなかった。


「そうかな」


 苦笑して返す。


「ご主人様、少しトランプで遊びませんか?」

「トランプ?」


 なぜトランプなのかは分からないが、嫌な話ではない。ゲーム自体、最近やっていなかったので、丁度いいかもしれなかった。


「ゲームはババ抜きです」

「うん。イカサマはなしだよ?」

「分かってますよ」


 満面の笑みでカードを切っていく。

 その素早さに、目を奪われていた。結構手馴れてるよね?

 三回程シャッフルをした所で、カードを配る。課題を横に退けて、配られたカードを捲った。


 ババは――なし。

 という事は、テリエシャさんが持っているという事か。


 揃ったカードを真ん中に捨て、残ったカードを手に持つ。


「では、私が先手をやりますね」

「うん」


 カードを取り、揃って捨てる。

 その作業を繰り返す度に、ババを引くか引かないかの緊張感が増していった。


「そろそろ終盤戦ですね」

「そうだな……」


 俺のカードは二枚。テリエシャさんは三枚でババ持ち。

 テリエシャさんがカードを引き、捨てる。


 そして、ババを引くか捨てて勝利か。ここがババ抜きのクライマックスである。

 テリエシャさんがカードをシャッフルし、カードを前に出した。


「――な!」

「ふふ」


 俺から見て右のカードが、大きく飛び出していた。驚く俺を、テリエシャさんはニヤニヤと見ている。


 ババ抜きは運とはいえ、心理的なゲームでもある。普段素直(?)なテリエシャさんは、ババを目立たせるのか。

 いや、これは勝利のカード!? これを取れば勝てるという案内なのか!?

 いや、これがババだという案内でも有り得る。


 テリエシャさんが幾ら優しいとはいえ、これは勝負だ。手加減をする気もしない。


「取らないんですか……?」

「――な!」


 飛び出していたカードが、ピョンピョンと揺れる。

 怪しい。勝負と考えれば、相手からしたらババを取らせたい。今の言動からすれば、右はババ――!?


「――っ!」


 勢いよくカードを引く。

 そっと表を向ける――。


「なん……だと!?」


 結果、ババでした。

 テリエシャめぇっ!


「次、私の番ですよ?」


 カードをシャッフルさせ、前に出す。


「勝ちたいですよね……?」


 眉をピクピクと動かし、無理やり笑顔を作りながら言う。

 だが、人間ならこんな表情は怪しむはず。


「はい、勝ちたいです」


 取った――!? なんの躊躇もなく!

 当然、全てを読んでカードを並べた為、テリエシャさんが取ったのはハートの七。


「あああああぁぁぁぁ――!」


 叫びにはならない叫びをあげ、俺達の勝負は終わった。


「罰ゲーム、ありですよ?」


 ――え?

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恋と日常とエトセトラ 白菊 @Sirogiku

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