第三話:夜食

「ご主人様、夜食の準備が整いました」

「うん。ありがと」


 首を少しだけ横に傾け、ニコッと笑った。そして、一礼。流石メイドだ。

 テーブルに向かうと、色とりどりの料理が並んでいた。


「おぉ、これ全部作ったの! 凄いな」

「ありがとうございます」


 麻婆豆腐に唐揚げ、色鮮やかなサラダに、綺麗によそわれた白米と味噌汁。

 何故か俺の好物が多かった。まさかと思い、テリエシャの方を見るが、ニコニコと笑っているままだった。


 何で知っているんだ。


「いただきます」


 唐揚げを箸で掴み、口いっぱいに頬張る。

 カリッとした衣を齧った直後、肉の風味が口内をめぐり巡る。美味い。


「ふふ。お気に召されたようで何よりです」

「テリエシャは食べないの?」


 一瞬驚いた仕草を見せ、再び満面の笑みを見せる。


「そうですね。では、お言葉に甘えさせて貰います」


 「失礼します」と言わんばかりにお辞儀をし、俺の前の席に座る。


「頂きます」


 白米をパクリと食べ、味噌汁を啜る。

 ゆったりとした笑顔を見せ、唐揚げを掴む。

 久しぶりに誰かとご飯を食べ、俺はお腹も心も満たされていた。

 自然と、笑顔が漏れていた。


 親父が言っていた事に、俺は改めて考えさせられた気がする。そして、これからの事、考えて行く必要があった。


「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした」


 最後まで兎に角美味かった。唐揚げはくどくないし、味付けも上手だった。

 洗い物をしようとするが、当然、「私がやります」と止められた。


「……ごめん」

「圭哉様」


 キリッとした表情で、食器を運ぶ俺を見詰めた。

 そんな表情も束の間で、テリエシャは目を細めて笑う。


「ごめんより、ありがとうですよ?」


 何処かで聞いた事のある言葉。でも、どんな言葉よりも心に響いた。

 ニコッと笑うテリエシャを、俺は苦笑して見せた。


「やっぱ、テリエシャは凄いな」


 きっと、この言葉がテリエシャに届く事はない。ずっと、俺の言葉の中で。

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