第二話:メイドというロボット

「ご主人様、今晩はの夜食に、何かご希望はありますか?」

「え? 作るの?」

「当然ですよ。ご主人様の為でしたら、心を込めて作るのがメイドとしての役目です」


 『何がいいか』と聞かれると、どうしても悩んでしまう。とりあえずここは、自分の好物でいいのだろうか。というか、自分の好きな食べ物ってなんだろ。


「んー、何でもいいよ。テリエシャさんが作ってくれるんだし」


 普段料理をする事なんて、滅多にない。親から野菜が送られて来た時には、無理矢理でも消費する為に料理をしていたが。

 そんなこんなで、手作りのご飯は久しぶりだ。しかも、自分じゃない他の人に作らせているんだし、無理を言うのもダメだ。


「畏まりました。では、余っている食材で何か作りますね」


 台所へ向かうテリエシャさんに、「うん」と返事をするが、俺は重要な事を忘れていた。

 そして、それを思い出した時には、彼女は冷蔵庫の中を見て唖然としていた。


「何も買ってないです……」

「……仕方がないですね。近くのスーパーまで行って参ります」

「すみません……」


 そして、再び重要な事を忘れていた。

 当然、思い出した時にはテリエシャさんはもうスーパーに行っていた。


「財布、大丈夫かな? それに、あの姿のままだと、色々と目立つ気がするけどなぁ」


 流石に、そこまでバカでは無いだろう。

 帰って来たらお金を返そう。というか、幾らで雇ってるのだろうか。


 そんな事を考えていて、小説に集中出来ないまま時間が過ぎていった。


「只今帰りました」

「……」

「どうかしましたか?」


 どうやら、特に問題はなかったようだ。お金は、また後でいいか。


「いや、何でもない」

「台所お借りしますね」

「うん。ありがと」

「どういたしまして」


 テリエシャさんはニコッと笑い、冷蔵庫の整理をしていた。

 俺は一度休憩に入り、欠伸を噛み殺した。お茶を飲もうと台所に行くと、


「麦茶、持っていきますね」


と言われた。


 いくら楽だとは言え、物凄く暇だ。暇な時間こそが至福の時間なのだろうが、どうも違和感があった。


「お待たせしました」


 コップを机に置くと、一礼して再び台所に向かう。

 まあ、慣れるしか無いのだろう。


「ご飯、楽しみだな」


 深呼吸を一度して、再びパソコンに目を向けた。

 数秒間画面が暗くなったところで、台所にいるテリエシャさんと目が合った。彼女は再びニコッと笑い、その様子に少し照れてしまう。


 パソコンのホームに戻ると、一件のメールに気が付く。親父からのメッセージだった。


『テリエシャはお前の家にいるんだよな? 彼女の置き手紙を見た時は驚いたよ。急に居なくなっていたからな! でも、そっちで元気にやっていける事を願っているよ。荷物は郵便で送るから、テリエシャの事を宜しく頼むよ。ああ見えて、結構普通の女の子だからね』


 親父の言いたい事は分かった。

 だが、疑問が大量に湧き出てくる。元々、彼女と話す事はあまりなかったし、ここに来た理由も分からない。


 親父がどれだけ俺の事をテリエシャさんに話していたかは知らないが、世話を焼きに来るような話しだったのだろうか。

 そんなに可哀想に見えたのだろうか。


 一回落ち着け。そうだ、冷静に考えるんだ。


「……分からん」

「どうかしましたか?」


 背後から声を掛けられるが、二度目は驚かない。それに、こんな曖昧な心境にあるのでは、驚くはずもない。

 パソコンを覗き込んでいたテリエシャは、文章を読んで黙っていた。


「……啓吾様も了承して頂けたようで何よりですね」

「あぁ」


 眉を寄せて笑うテリエシャを見て、俺は親父の言葉に納得した。

 そして、俺も頑張って笑って見せた。

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