恋と日常とエトセトラ

白菊

第一話:メイド到来

啓吾けいご様の命令より参上致しました。これより圭哉けいや様のメイドとして、日々お世話させて貰います。名を、テリエシャと言います」


 銀髪の滑らかな髪を腰近くまで伸ばした女性は、突然、夜崎よざき圭哉けいやの家にやって来た。


 美しい切れ長の目をしていて、海のように青い眼。白く、透き通るようなふんわりとした肌。

 そして、何より印象的なのは、彼女がメイド服を着ていたという事。


 セミの鳴き声が止まない猛暑日。

 外での長話は申し訳ないという事で、彼女を一度家の中に入れる。


「さっき親父がどうとか言ってたけど、あれってどういう事?」


 氷を二、三個入れた麦茶を差し出す。

 「ありがとうございます」と一礼し、両手を使って飲む。この礼儀の良さ、俺も見習わないとな。


「啓吾様には、圭哉様のお世話を頼まれています。一人暮らしが心配なのでしょう。高校生という事もあり、日々大変なのは啓吾様も理解していました。そこで派遣されたのが、メイドである私、テリエシャなのです」

「なるほど……。なんか納得出来ないな」


 一人暮らしをする俺の所に、可愛い年上メイドが来るというのが先ずおかしい。

 世話をするなら同性で良いよ……。異性とかやめてくれよ、親父。


「圭哉様が納得出来ない気持ちは分かります。ですが、ここで引き下がる事は出来ません」


 まあ、正直嬉しいけどさ! でも、そこまでされても困るというか。一応、今まで大丈夫だった訳なんだし。


「一応分かったけど、荷物とかは持って来てないの?」

「はい。後ほど配達物として届く予定です」


 なるほど。外は暑いからな。重い荷物を持つなんて御免だよな。


 とりあえず話がついた所で、飲み終えた麦茶のコップを片付けようとする。


「私がやりますので、ご主人様は自由にしていて下さい」


 しかし、満面まんめんみで止められた。

 笑顔がよく似合った女性だと、俺はそう感じた。まあ、一応メイドだもんな。


 台所にコップを持っていった所で、器用に洗い物を始める。流石はメイドだ。


 しばらく暇になった俺は、部屋からパソコンを持って来た。

 普段は自分の部屋でやっているのだが、最近は猛暑日が続いている。その為、唯一クーラーの存在するこの部屋で、パソコンをやるしかなかった。


 俺の名前は夜崎よざき圭哉けいや、十七歳である。本業は高校生。副業は、小説家だ。といっても、バリバリ有名な訳では無い。そこそこ有名なだけだ。そう、そこそこ。


 パソコンを起動し、その他もろもろ器具の準備をする。

 夏休みは便利だ。小説を書く時間がたっぷりある。書籍の方も、徐々に売上を増やしている。何より嬉しいのは、Webの方で感想も気軽に見れるという事。読者の感想を見るのは、小説家のやり甲斐のひとつでもあるからだ。


 未読の感想をじっくりと読み、ニヤニヤと笑っていた。


「仕事ですか?」

「うぉっ!?」


 パソコンに集中し過ぎて、テリエシャの事をすっかり忘れていた俺は、急に声を掛けられて驚く。


「ふふ。そんなに驚かないで下さい」

「急に声を掛けられると、驚くもんだよ」


 苦笑した。お辞儀をするように覗き込んでいたテリエシャは、その大きな胸を強調させているように見えたからだ。


「……どうかしましたか?」

「あ、いや、何でもない」


 因みに俺は貧乳派。といっても、巨乳が嫌いな訳では無い。ずば抜けて好きなタイプというのは、俺にはあまりない。

 年上も年下も嫌いではないし、勿論同級生も嫌いではない。ツンデレもいいけど、ヤンデレやデレデレも捨て難い。


 そんなどうでもいい事を考えながら、俺は「メイド服って良いよね」と軽率けいそつに呟いた。

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