五章
第103話:カスタール神聖国side
――カスタール神聖国にて。
教皇、ブラカ・パル・カスタールは、舞い込んでくる報告に頭を悩ませていた。
「まさか魔王が直々に攻めに来るとはな」
「いかがなさいますか? 魔王軍はここカスタール神聖国、神都であるリーシャンを次に攻めてくるかと」
大臣の報告を鼻で笑い飛ばす。
「そんなもの先に攻めれば良いではないか。勇者は何をしている!」
「そ、それが……」
口ごもる大臣。
「はっきりと申せ!」
「その、勇者ラフィネとその一行が倒されたと報告が上がっております」
「なにっ!? それは本当か!」
勇者が倒されたことに驚きを隠せないブカラ。
だがカスタール神聖国側の者達は真実を知らない。
勇者であるラフィネが生きており、魔王軍の軍門に屈したということを。
「勇者を失った我等にはこの状況を打開できる策は何も……」
「まさか勇者が……」
座っていた椅子から崩れ落ちるブラカだが、次の瞬間には立ち上がった。
その目は怪しく光っていた。
座りなおしたブラカは口を開いた。
「勇者がいないのなら、新たに勇者を生み出せばよいのだ」
「それはあまりにも!」
反論する大臣達。
そこへ一人の大臣がブラカへと報告をする。
「聖剣は魔王軍の手に落ちています。回収は困難かと」
「なに。聖剣に選ばれなくとも、あるではないか。アレがな」
ブラカの言うアレとは……
「アレとはまさか!」
大臣の言葉にブラカは笑みを深め、口を開いた。
「――勇者召喚だ」
その言葉にざわつく広間。
勇者召喚とは、文字通り異世界から勇者を召喚する魔法のことである。
召喚される勇者の力は強く、一軍にも匹敵すると、語り継がれていた。
過去に勇者召喚がされたのは500年ほど昔だ。
迫り来る魔王の軍勢になす術もなく世界の3分の2を魔族によって支配された。
人類の危機に人々は勇者召喚を行い、召喚された一人の勇者とその仲間によって瞬く間に軍勢を退け、さらには奪われた大陸を奪還したのである。
そのまま勇者を魔王を倒し、世界を、人類の危機を救ったのである。
事実、勇者の力は強大だ。
聖剣がなくとも異世界を渡る際、魂や基礎身体能力といった様々ものが強化されこちらの世界へとやってくる。
「ですが、勇者の召喚は成功率がかなり低いです。成功する見込みなど……それにすぐにでも魔王軍は迫ってきます。ここは他国に協力を求めたほうが得策では?」
「何度も言わせるな。勇者召喚は成功する。なんせ我々には女神アルツェナ様が見守っておられるのだから。人類の危機に、女神様は応えてくれる」
ブラカの言葉に、「そうだ。我々には女神アルツェナ様が付いている」と自信を胸に広間に集まっていた者らは笑みを浮かべていた。
「では早急に勇者償還の儀式へと取り掛かるのだ!」
「「「はっ!」」」
こうしてカスタール神聖国は、勇者召喚の儀式へと取り掛かるのだった。
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