第100話:敗戦国だよ?

 レイドの言葉に、聞いていたフランは頬を紅く染め、「そ、そんな人前で……」と照れていた。


 バルザークが口を開く。


「なら、これからどうするつもりだ?」

「……どうするとは?」

「魔族が幸せな世界。つまりは魔族が平和で生きられる世界。そう言うことだろう?」

「ああ」

「なら人間達が許すはずがない。ライネール王国の王都が落ちたと知れば、すぐにでも魔王城を陥落させようとして動くのではないか?」


 バルザークの推測にレイドやフランのみならず、他の誰もが「確かに」と首を縦に振った。

 逃げた者が近隣の街々に知らせに向かったとして、そこから各国に情報が流れるまでそう時間はかからないだろう。


 一週間もしない間には広まるはずだ。


「この王都にある程度戦力を残し、残った軍で確実にライネール王国を落としにかかろう」

「まあ、それが妥当な所だな」

「だが、その前に魔族領付近の砦を確実に制圧しておきたい」

「俺も賛成だ。魔王様は?」

「妾も同じだな。なら手っ取り早く済ませるとしようか」


 フランの言葉によって準備へと取り掛かることになった。


 しばらくして日が傾き茜色の空になった頃。

 リリスから、ラフィネが目を覚ましたと報告があった。


「あの勇者、騒いでて五月蠅い」


 報告に来たリリスがそう言った。


「妾も一緒に行こう」

「なら私も」

「むっ、リリスは別に来なくても良くないか?」


 フランが一緒に来ると言ったリリスへとそう告げるも。


「勇者を治療したのは私です」

「そ、そうか。なら仕方がないな」


 いや、リリスじゃなく、部下にやらせたんだろ、と言いたいところだが、ややこしくなりそうだったので言わないことにした。


 そうしてラフィネの所へと行くと……


「一体何しに来た! 外道!」


 重傷だったのにピンピンしており、さらには喚き散らしていた。

 しかもラフィネの中でレイドが『外道』ということが定着していた。


「それで、その外道のお陰で命が助かった気分はどうだ?」


 皮肉を込めてそう言ってやった。


「何があんたのお陰――ぐっ」


 まだ治りきっておらず、大きな声を上げたことによる痛みで呻き声を漏らす。


「選べ」

「またそう言って――」

「言っとくがお前の命は俺達が握っているんだ。それを忘れるな」


 ラフィネの言葉を遮ったレイドは、首輪を指差しそう言い放った。


「くっ……今度は何をさせる気……?」

「この国の王になるか、死ぬかだ」


 ラフィネには選択の余地がなかった。


「……どういうつもり? 私が王になったところで、魔族の手に落ちたと分かれば――」

「言っとくがこれは強制だ」

「――ッ!」


 強制。つまりは首輪を付けられている限り、その命令には逆らえないのだ。


「この王都は魔族と人間を壁で隔てる。あとはお前が統治しろ」

「何を言って……」


 訳が分からないと言いたげなラフィネに、レイドはさらに続ける。


「お前は魔族の指示には逆らえない。なに、虐殺するわけじゃない。人間達をしっかりと管理してくれればそれでいい」

「管理って、私達はあなた達魔族の奴隷なんかじゃ――ッ!?」


 濃密な殺気がラフィネを襲った。


「解らないか? お前達ライネール王国は魔族との戦争に負けたんだ。その意味が、理解できるよな?」

「……」


 敗戦国。つまりは魔王に屈服したということだった。



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