第97話:王都陥落
シュトルツが焼けた後には何も残っていなかった。
レイドは空へと目を向けた。
レイドは仮面を取り出して付け、落ちた魔剣を拾い鞘に納める。
気が付けば雨は止み、曇天の切れ間からの日差しがレイドの場所を照らしていた。
周囲の視線がそんなレイドへと向けられていた。
「た、倒した、のか……? あの化け物を……」
「あの人が倒してくれたのか。それに……」
誰もが思った。
ああ、なんて神々しいのだろうか、と。
漆黒のコートを着て仮面を付けた人物は、ただただ崩壊した瓦礫の山の上に佇んでいた。
一人がその仮面の人物へと近寄って行くと、ぞろぞろと他の人達もその佇むレイドへと歩み寄る。
そして瓦礫の山一歩手前まで来てレイドへと言った。
「あ、ありがとうございます!」
「王都を救ってくださりありがとうございます!」
「宜しければお名前をお聞かせください!」
そんな感謝の声と共に、一人の少年がレイドへと言った。
「化け物から王都を守ってくれてありがとう! もしかして勇者なのっ?!」
チラッと仮面越しに少しだけ振り返るレイド。
「――ふざけるな」
「……え?」
少年は返ってきた声に、呆けた表情をしている。
「勇者? ふざけるのも大概にしろ。俺は勇者ではない。いや――元勇者だったがな」
「も、元、勇者……?」
誰かが呟いた。
「かつて、貴様達の為に命を懸けて戦ったのにな。この顔、忘れたとは言わせないぞ?」
ゆっくりと仮面を外し睨み付けた。
「――そ、その顔は!?」
「て、手配書にも描いてあった前勇者のレイド!」
「ど、どうして……」
何故元勇者のレイドがここに居るのかという疑問に、答えた。
「何故か? そりゃあ――復讐に決まっているだろう?」
「ふ、復讐……?」
ザっと後ずさる民達。
少年は何が何だかわからない様子でいる。
「い、今更勇者面するつもりか!」
「そうだ! お前は自分を勇者と偽った犯罪者なんだぞ! それが分かっているのか!」
「聖剣が使えないくせに!」
散々な言われようである。
「別に俺に何を言おうと関係ない。何せ俺はお前達人類の敵だからな」
「どういうつもりだ! いつまでも逃げ回っていられるとは思うなよ!」
「そうだそうだ! この手で殺してやる!」
魔人となったシュトルツを倒してやったのに、この言われようだ。
呆れて何も言えない所に、一体の黒い下級竜がレイドの元へと降り立った。
そこに乗っているのはリリスとフラン。
リリスが死霊魔法で召喚したドラゴンである。
民たちが「ひぃっ」と悲鳴を上げ尻餅を着く。
レイドはまだ辛うじて生きている勇者ラフィネを回収し、ドラゴンの背へと乗る。
「に、逃げるのか!」
ドラゴンの背へと乗ったレイドに向かってそう声を上げる民。
「……逃げる?」
その瞬間、凄まじい殺気が放たれる。
その殺気で気絶する者や、漏らすものが続出する。
気絶していないのは極一部の者達だけである。
それでもガクガクと震え、今にも走って逃げそうではあるが……
「言ったはずだ。俺はお前達の敵だと。俺はもう魔族側だ。お前達を殺すのだって何とも思わない。勇者を失い、王や王子、その側近達も失ったお前達に何が出来るかわからないが、精々絶望の淵で足掻いて見せろ。俺はそれを楽しませてもらうとしよう」
飛び立つドラゴン。
レイドは忘れていたと言わんばかりに「そうだ」と前置きしてから告げた。
「王都は魔族の手に落ちた。それが何を意味するか、しっかり考えることだ。逃げる猶予は一日やる、好きにしろ。ただし――歯向かう者は容赦なく殺す」
そう言ってレイド達は飛び立つのだった。
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