第92話:真の魔人Ⅱ

天を衝いた魔力の奔流は、周囲の雨を搔き消す。


レイドは火球ファイヤーボールをシュトルツに向けて連発する。

そのまま直撃するも、炎の塊は消えてしまった。


「チッ、面倒な……」


魔力の奔流に打ち消された事に舌打ちをし、そう言葉を零す。


収まるまで何も出来ないだろう。

そう思っていたが、すぐに魔力はシュトルツへと収束していく。


収まりそこに佇んでいたのは、大きく肥大した体と筋肉。

そして何より感じるのはその身に秘める膨大な魔力だった。


レイドの方を見るシュトルツ。

イケメンなシュトルツの顔は、魔人の血を全て取り込んだ事により、醜く変貌していたのだ。


手に持つ邪剣は脈動するかのように動き、不気味に輝いていた。


「これが、これが真の魔人の姿だ!」


真の魔人。

つまりは、先ほどまでの姿は完全な魔人ではないという事だ。


「それが真の魔人の姿、だと?」

「そうさ! この溢れる力と魔力!」

「……一つ聞きたい」

「いいだろう。今は気分が良いから答えてやる」

「魔人の血なんて取り込んだら危険だ。下手したら死ぬ。だから聞きたいんだ。シュトルツ。お前はどうして、無事なんだ?」


無事、という言葉は果たしてそうなのだろうか?

シュトルツの肉体は以前とはもう違うのだから。


それに、話し方も傲慢になっている。


レイドの質問に、上機嫌なシュトルツは答えた。


「特別に教えてやろう」


そう言ってシュトルツは、自身がどうして無事なのかを語った。


「レイド、確かに貴様の言う通りだ。普通なら最初の段階で私は死んでいただろう。だがな。私は研究を続けたのだ」

「研究?」


研究と聞き返すと、頷くシュトルツ。


「そうだ。魔人の血をどうすれば取り込めるかだ。研究し辿り着いたのが、一気に投与せずに、半分ずつ投与すると言う事だった。それに、この力に耐え得るため、力を付けた。これが私の研究成果だ!」


シュトルツは満足げに。なおかつ誇らしげにそう言い放った。


だが残念かな。

シュトルツはそのまま鍛えていれば良かったのだ。

所詮は借り物の力だ。


(哀れな王子だな)


レイドはそう思った。


「さて、話はもういいだろう?」


シュトルツは口角を釣り上げ、醜い顔が歪んだ。

レイドへと向けられる邪剣。


「そうだな。殺してやる」


そう告げてレイドも魔剣をシュトルツへと向ける。


「殺す? 誰を?」

「お前だ」

「私を?」

「忘れたとは言わせない。牢で俺をよく拷問して楽しんでいたろ? だから――殺してやるよ」

「やってみるといい!」


二人は再び戦うのだった。



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