第90話:魔人戦

 互いは一度距離を取って見つめ合った。


「魔王を逃がしたのは痛手ですが、元勇者のあなたが私に勝つつもりで?」

「ああ」

「聖剣ではなく魔剣で、ですか?」

「そのつもりだ」

「……そうですか」


 それだけ言うと、シュトルツはスッとレイドを睨む。いや、様子を伺っていた。

 攻撃するタイミングを見計らっていたのだ。


 空が曇り、雨が降り出した。


 その瞬間、シュトルツが一気に詰め寄り斬りかかってくる。


 キンッという金属音が鳴り響き、一撃目を防ぐ。

 だが二度三度と剣戟の応酬が繰り広げられる。


 雨が強くなり、雷までもが鳴り出す。


 レイドの濡れたコートが雷の光を反射する。


 徐々に傷が増えて行くレイド。

 一方、シュトルツはというと、傷を与えても瞬時に再生してしまう。


 一方的にレイドの体へとダメージが蓄積していく。


 シュトルツの膨大な魔力が込められた凶悪な斬撃がレイドへと迫るも、それを魔力を纏った魔剣にて弾く。


「ぐっ!」


 斬撃の威力が高く、腕ごと持って行かれそうだった。

 一撃の威力を低くする代わりに、次々と斬撃がレイドを襲う。


 流石のレイドも全て弾くのは厳しく、回避をする。その度建物が次々と倒壊し、切り裂かれていく。


 王都の人間達は悲鳴を上げて逃げ惑う。


 斬撃の嵐の中、レイドはシュトルツへと問う。


「民を巻き込んでいるぞ! それでも王子か!」


 そんなレイドの言葉をシュトルツは鼻で笑う。


「民? 選ばれた人間である私と一緒にしてもらっては困ります――ねっ!」


 接近してきたシュトルツに反応がコンマ数秒遅れ、一撃を防ぐも、重く吹き飛んでしまう。

 空中で体勢を立て直し、着地する。そこへ斬撃が迫る。


「くっ」


 体を捻り回避する。

 躱した斬撃は背後の建物と民を巻き込んだ。


 だが今のレイドにそんなことを気にする余裕はない。

 目の前の敵に集中しているからだ。


 このままでは一方的にやられるだけと悟ったレイドは、とあるトリガーとなる魔剣の名前を呟いた。


「――魔剣バハムート、力を寄こせ」


 次の瞬間、レイドの魔剣から黒いオーラが発生し、それはレイドの体へと流れた。


 これはレイドが魔剣の力の一部を自身の強化へと回したのだ。


 限界突破は使いどころが限られるため、まだ使用はできない。

 そのため、レイドは魔王城に居たあの時、魔剣の力の一部を引き出すこの技を身に付けたのだ。


「そんなものでこの魔人である私を倒せるものか」


 そう告げて魔弾をレイドへと放ち、さらに斬撃が迫りくる。


 迫りくる魔弾と斬撃を前に、レイドは冷静に対処した。


「なっ!?」


 放った攻撃の全てをレイドが何でもないかのように弾いたのを見て、シュトルツは驚きの声を上げた。


「まだこれからだ」



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