第89話:元勇者、魔人と戦う

シュトルツはラフィネの手に持つ聖剣を手に取った。

光輝きシュトルツの手を焼き焦がす。


「――我に従え」


闇が聖剣を包み、黒く変色させていく。

だが流石は聖剣なのか、対抗するように輝きが増していく。


闇がさらに強くなり、聖剣の抵抗は虚しく終わった。

シュトルツの持つ聖剣は黒く変色し、不気味に輝いていた。


さらに聖剣だったモノからは、黒いオーラが滲み出ていた。


「……フランにミレーティア。アレをどう思う?」


レイドの質問に二人は答える。


「どうみても嫌な気配が伝わってくる」

「ミレーティアもそう思うの。壊すしかないと思う」

「だよな」


賛同するレイド。

ここでシュトルツを止めなければ、被害が大きくなる一方だろう。


シュトルツが試しに聖剣、いや、ここは『邪剣』と呼んだ方がいいだろう。

邪剣を振った瞬間、斬撃が飛び出て建物を両断していった。

そのまま数百メートル斬撃が飛び消えた。


たったの一振りでこの威力だ。

聖剣だった時の性能を遥かに超えている。


これが魔人の力の一端なのだろうか。


レイド達へと向き直ったシュトルツは口を開いた。


「元勇者と魔王。やろうか」


邪剣を掲げ――振り下ろした。


その瞬間、物凄い速さで斬撃が飛来する。


「避けろ!」


咄嗟にレイドはそう声を荒げた。

二人はレイドの声に従って受け止めようとはせずに、素直に回避に転じた。


本能でアレを防いではいけないと思ったのだろう。


「このまま叩くぞ!」


レイドの言葉に頷き三人でシュトルツを囲み接近する。

レイドは魔剣を、フランは魔法を。ミレーティアは拳で。


先にレイドが魔剣にて斬りかかるも、邪剣によって簡単に防がれてしまう。

そこへシュトルツの背後からミレーティアが大量の魔力が込められた拳にて、突き放つ。が、それはシュトルツの空いた片手によって受け止められた。


「甘いっ!」


シュトルツが叫び、レイドは弾き返されてそのまま吹き飛び、ミレーティアは蹴り飛ばされた。


周りにレイドとミレーティアがいなくなったことで、フランの魔法が放たれる。


シュトルツを囲みその中が黒い炎で埋め尽くされた。


だが……


「この程度では倒せないぞ!」


火傷が一瞬で再生してしまう。

そのままフランへと迫り邪剣にて斬りかかろうとする。


「くっ!」


咄嗟に障壁を展開するも、あっさりと切り裂かれてしまう。

だが、ギリギリのところでレイドが受け止めた。


「ぐっ、フランにミレーティア! ここは俺に任せて先に戻ってバルザーク達と合流するんだ!」


邪剣を受け止めながらそう告げるレイド。


「じゃがっ!」

「レイドお兄さん!」

「いいから早くいけ! コイツはお前らに務まる相手じゃない!」

「……足手まといか?」

「ああそうだ! 悪いがフランとミレーティアは死なせるわけにはいかない!」

「……わかった。勝つのだぞ!」

「勝ってねレイドお兄さん!」

「ああ!」


唇をグッと噛み締めるフランは、ミレーティアと共に後退していった。

残されたのはレイドとシュトルツのみとなった。




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