第88話:勇者、敗れる

「魔人の血ですって⁉︎」


驚愕に目を見開き、そう叫ぶラフィネ。

レイドやフランも、シュトルツのその言葉を耳にし、驚きで目を開く。


「レイドお兄さん、魔人ってなに?」


唯一わからないミレーティアのために、レイドは説明する。


「魔人とは、遥か昔に人間達の国で大暴れした奴のことだ。見た目は魔族に近い。ツノを生やし青紫の肌をした人型の魔物のことを言う。一人の魔人を倒すためだけに、人間達は多くの命を散らしたと言われている。文献や言い伝えでしか聞いたことがなかったが、まさか王家の宝物庫にその血が眠っていたとは驚きだ」

「そんなに強いのか?」


フランの言葉にレイドは頷いた。


「恐らくはな。魔人は魔力を直接操ることができ、身体能力も魔族の比ではないと。先ほどの魔力の雨も、直接魔力を操ったのだろうな」


レイドの言葉に、警戒しながらラフィネとの戦闘を見つめるフラン。


「助けないのか?」


フランはレイドへとそう言った。


「まさか。勇者なら倒してほしいものだ」

「まあ、そうじゃよな」


それから三人はシュトルツとラフィネの戦いを見守ることにした。




「その程度か勇者!」


起き上がり、攻勢へと移ったラフィネにシュトルツの拳が炸裂する。

その攻撃の早さに、まともに避けることが出来ずに被弾していくラフィネ。


「あがっ⁉︎」


ラフィネが血反吐を吐いた。


「――くっ! まだっ!」


ダメージを受けながらも、ラフィネが無理やり聖剣を振るった。

その軌道はシュトルツの右腕を捉え――切断した。


腕が切断されたのに苦痛の表情を一切見せることなく、ラフィネを蹴り飛ばした。

そのまま地面を転がるも、痛い体を無理やり立ち上がらせ、シュトルツを見た。


「勝負はついたわ。降参しなさい」

「勝負? 何を言っているので?」

「だって右腕がない状態で――なっ⁉︎」


ラフィネは目の前の非常識な光景に、驚愕の声を上げた。

それは、シュトルツの切断された右腕に闇が纏わり付き、瞬時に再生したのだ。


「腕はこの通り問題ない。少し油断したので少し真面目に相手をしよう」


聖剣を構え集中するラフィネだったが、瞬きの瞬間にシュトルツの姿を見失った。


「ッ⁉︎ 一体どこへ――ごはっ……?」


突然口から盛大に血を吐いた。

腹部がジリジリと熱く、目線を下に移すと、そこからは腕が生えていた。

否。シュトルツに貫かれたのである。


腕を抜くと、ラフィネは血を大量に流しながら崩れ落ちた。

どこからどう見ても重傷である。


「ふむ。やはり勇者と言えどこの程度ですか」


ラフィネの意識はその言葉を最後に途切れたのだった。





 

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