第87話:その正体は・・・

 シュトルツは眼下の逃げ惑う人々と、撤退する魔王軍を見て笑っていた。


「ハハハッ! 所詮魔族と言えどもこの程度。私の前では誰も勝てないのだ!」


 その時、下方で剣を抜き構える者が一人。

 手に持つ剣は白く輝く聖剣。


 その人物を見て、シュトルツはさらに笑みを深めた。


「クックック。まさか勇者様のお出ましとは。良いだろう。ここで殺してその聖剣を我の物にしてやろう」


 シュトルツはラフィネに向けて魔弾を放つ。


 飛来する魔弾を避け時には弾いて行く。

 だが、シュトルツは上空に居るために剣は届かない。


 だがラフィネには建物を伝い、シュトルツへと跳躍した。


 迫るラフィネに感心するも、その程度だった。


「届きませんよ」


 シュトルツはその場から一瞬で、ラフィネの眼前へと迫り蹴りを放った。


「――かはっ!?」


 吹き飛ぶようにして建物を倒壊させ倒れるラフィネ。


「弱いですね。勇者と言えどもその程度だとは。落胆させないで下さい」


 追撃とばかりに魔弾を放つシュトルツ。

 魔弾はそのまま迫り直撃する。


「――ッ!?」


 声にならない悲鳴を上げるラフィネだったが、白く輝くと、その傷は少しずつ癒えていく。

 聖剣の効果だ。


 一方、レイドとフラン、ミレーティアは逃げずにシュトルツを観察していた。


「レイド。シュトルツとやらはあんなに強いのか?」

「バカいえ。王子と言えどもあそこまでなわけあるか。宝物庫に行ったんだ。何かを使っているに違いない」

「じゃよな」


 レイドとフランの会話にミレーティアが混ざる。


「でも何か強い気配を感じるよ? こう、何ていうか、禍々しい感じが」

「だな」

「妾でも感じる」


 あそこまで強大で禍々しい気配など、感じた事が無かった。


「フラン、何か知らないのか?」

「知るわけがなかろう」

「だよなぁ……」


 徐々にラフィネの体力が消耗させられていく。



 ラフィネは破壊の雨を前に避けつつ、再びシュトルツへと迫った。


「なんでこんなことを!」

「なんで? そんなの決まってますよ。――破壊あるのみです」

「どうしてそんなことを!? 民の事はいいのですか!」


 ラフィネの言った『民』という言葉に、シュトルツは可笑しいとばかりに笑う。


「何を言っているので? 民とは貴族である我々のためにあるモノです」

「モノって……見損ないました。私の手で直々に殺してあげます!」

「あなたに殺せるなら、ですがね?」


 地面へと降り立つシュトルツ。


「……空じゃなくていいの?」

「構いませんよ。空だろうと地上だろうと、私が勝つのに変わりはありません」

「そう。あとで後悔する事ね」


 ラフィネが迫りシュトルツの背後を取り斬りかかったが、その攻撃はいとも簡単に避けられてしまう。


「だから言ったでしょう? 変わらないと」

「――かはっ」


 腹部を殴られ蹲るラフィネに、シュトルツはその髪の毛を掴み膝蹴りをかます。


 ラフィネの口から血の混じった唾液が吐かれた。


「うっ、ぐぅぅ……どう、して、殿下がそこまでの力を持って……」

「この力? 知らないか? 宝物庫には宝だけではなく、封印されているモノがあるということを」

「聞いたことが、ない……」

「そうでしょう。だってそれは遥か昔に幾つもの国を滅ぼしたとされる、魔人・・の血なのだから」


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