第82話:玉座の間にて

 王城は慌ただしかった。

 全ての入り口や、侵入できそうなところには兵を配置し、王族や大臣、軍の幹部などは玉座の間にて話をしていた。


「陛下、逃げないのですか?」


 一人の軍の幹部がそう尋ねた。


「確かにここで逃げるというのも一つの手だ。いや、確かに逃げた方が良いのは確かなのだろう。だが王である私が逃げるわけにはいかない」

「ですが――」

「問題ない。すでに妻や娘たちは抜け穴を使って、王女の外へと逃げている」


 ホッと息を吐いた。

 王族が居なくなれば国として終わってしまうからだ。


 そんな中、第一王子であるシュトルツは数人の護衛を連れて何処かへと向かった。


「待てシュトルツ。どこへ行く」

「父上、少し宝物庫に、ね」

「何をする気だ?」

「宝物庫には古代の魔道具があります。それを使って少しでも魔族に勝つ確率を上げるのですよ。安心してください。父上が死んでも次の王は私ですから」


 そう言って笑みを浮かべたシュトルツは玉座の間を出て行った。



 しばらくして城門の方から爆発音が響き、王城を揺らす。


「な、何事だ!」

「わ、わかりません。ですが、魔王軍がこの城を落とそうと攻勢に出たのかと」


 そこへ玉座の間の扉が勢いよく開かれた。


「ほ、報告です! 魔王軍が城門を破壊し、攻め入ってきました! 他の所からの侵入は確認されていません!」

「やはりか」


 その言葉がここに居る誰もが思った言葉であった。


 軍の指揮官が命令を下す。


「兵を正面へと配置せよ。他が手薄になっても構わん。何てしても阻止せよ!」

「はっ! 直ちに!」


 走り出て行く兵。


「大臣閣下らも早くご非難を」


 その言葉に何人もの大臣達が非難の声を上げる。


「魔族共相手に逃げてどうする!」

「そうだ! さっさと蹴散らせ!」

「そもそもなぜここまで攻め入られているのだ! 軍は何をしていた!」

「何処に逃げろというのだ! 王都はすでに陥落したも同然なのだ! ここ以外にどこが安全だというのだ!」

「そ、それは……」


 言葉を詰まらせる軍の幹部達。


 だが、王国の民は反抗した者以外は生きている。

 それは王都を陥落させた後に、無用な反感を買わないためにであった。


 戦闘が近くで聞こえてきた。


 焦る国王。


 シュトルツはまだ戻っていない。

 きっともう殺されている。そう思っていた。


 そして静まる戦闘音。


 コツコツと聞こえてくる複数の足音。


 玉座の間も静まり、各々が武器を抜き扉へと構え、来るだろう敵を待ち構える。


 近衛兵達は王を守ろうと武器を抜き間へと出る。



 そして――扉が煌めいたと思った瞬間、玉座の間の扉は崩れ落ちた。

 そこから現れたのは、黒衣のコートに仮面を付けた者を先頭にした、魔王軍であった。



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